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世界劇場会議名古屋 フォーラム2021 開催報告

 
 
世界劇場会議名古屋 フォーラム2021
「公共劇場のゆくえ」

開催日:2021年12月10日(金)14:00~17:30
会場:愛知芸術文化センター12階アートスペースA

プログラム
第1部 公共劇場最前線
講師:
長谷川 祥久 香山建築研究所 代表取締役所長
兒玉 謙一郎  (株)久米設計 設計本部建築設計部副部長

第2部 公共劇場のこれから
パネリスト:長谷川 祥久 香山建築研究所 代表取締役所長
兒玉 謙一郎 (株)久米設計 設計本部建築設計部副部長
コメンテーター:清水 裕之 岡崎市民会館 芸術監督、名古屋大学名誉教授
進行役:細井 昭男 (株)都市造形研究所 執行役員社長


第1部報告
報告者:中島貴光(大同大学工学部建築学科 教授)

 第1部は「公共劇場最前線」と題して、講師としてお招きした長谷川祥久・兒玉謙一郎両氏に劇場建築の近作をご紹介いただいた。

 先ず始めに、共同設計された『那覇文化劇場 なはーと』について両氏揃ってご説明された。元々、沖縄県那覇市の市民会館建替プロジェクトであったが、敷地変更があり、廃校となった小学校の跡地を活用したプロポーザルとなったとのことである。「那覇ならでは」の要素を取り入れた提案とし、ウナー(御庭)、スージグヮー(街路)といった首里城に見られる建築言語を積極的に取り入れられている。ホールやスタジオの間に半屋外的な空間を設え、ホワイエであると同時に、四方から自由に通り抜けや滞留の出来る場となっているのが特徴的である。

 次に長谷川氏より、『五泉市複合施設 ラポルテ五泉』のご紹介があった。新潟県五泉市のプロポーザルであり、国道に接する広大な農業用地の一角が敷地となっている。ここでも地域性を活かした提案をされており、シンプルな木造架構の大屋根の下に、劇場関連施設だけでなく、農産物や特産品を扱う展示・物販スペース、子供の遊び場などが緩やかに繋がるように計画されている。また、劇場系・産物系・イベント系のそれぞれのコンサルタントと協働し、運営計画も含めて設計事務所で受注する形を提案されたという点がユニークである。

 後半には兒玉氏より、久米設計で手掛けられた四つの事例のご紹介があった。一つ目は『日本青年館ホール』で、日本青年館及び日本スポーツ振興センタービルの移転・合築として、東京都新宿区の神宮外苑地区に建設されたとのことである。神宮外苑のイチョウ並木から程近く、第二種風致地区に指定されており、厳しい建蔽率の制限がある中、劇場・事務所・ホテルの機能を積層させた計画となっている。神宮球場に面した道路側にホールのエントランスを兼ねるコンコース型の空地を確保し、自然豊かな外苑の杜を引き込む意図が読み取れる。

 二つ目は『津市久居アルスプラザ』であり、三重県津市の旧久居市役所跡地のプロポーザルにより建設された。基本計画及びその中で謳われていた「劇場法」への配慮に対してどう答えるかに主眼を置き、それらを読み解き抽出したキーワードを元に整備方針をまとめられたとのことである。イベント時などに解放される広場空間を中心とし、階段を四箇所に設置するなど、立体的に回遊性のある施設構成を採っている。大屋根からは規則的に配したトップライトを介した自然光が降り注ぎ、様ざまな居場所を提供しているのが印象的である。

 三つ目は『さいき城山桜ホール』についてご説明された。大分県佐伯市の中心に位置し、かつては城下町として栄えたが、デパートの閉店等により空地になっていたエリアの活性化を図る再開発事業として計画されたとのことである。古い街並みが残る景観への親和性を考慮し、小さな屋根を重ねることで街にスケール感を合わせることが意図されている。また、本事例でも、共用部分を外部の広場と一体的に使用することが想定されており、大ホールの座席を収納し平土間として繋げ、お祭り時などにフラットな状態で使用出来るのが特徴である。

 最後となる四つ目には『箕面市立文化芸能劇場』をご紹介された。大阪府の御堂筋線を延伸して作られる新駅の駅前地区の一角が敷地であり、大学及び商業施設と隣接し、図書館・生涯学習センターとの複合施設として計画されている。建築主側からは、運営の都合上、劇場と図書館はエキスパンションで縁を切って欲しいとの要望があったとのことである。しかしながら、外観上、機能ごとの箱状のボリュームをリズミカルに並べることで統一感を持たせ、また駅から伸びる歩行者デッキのある2階レベルにアプローチを集約し、賑わいを創出している。

 今回ご紹介していただいたいずれの事例においても、地域の拠点となる複合施設としての役割が強く求められており、多種多様な人びとの活動や生活行為を受け入れるオープンスペースの作られ方(第2部の清水裕之先生のお言葉を借りれば“間(あいだ)の空間”)に設計者の特徴が顕著に表れており、大変示唆に富んだお話を伺うことが出来た。



第2部報告
報告者:吉井 央登(ジェイアール東海コンサルタンツ)

1. 第二部の趣旨
第2部は、「公共劇場のこれから」と題して、1部で講師をされた長谷川氏と兒玉氏に加えて、清水裕之氏を迎えて議論を行った。劇場の未来について第一部でご説明頂いた作品を事例にお話を頂いた。

 まず始めに、清水氏より公共の劇場建築の成り立ちと現在の運用について、ご説明頂いた。公立文化施設及び公会堂は、戦前の公会堂が原型と推測されている。会館は60年代から70年代を通して貸館運営を主目的とした多目的ホールへと変化した歴史を持つ。同時に鑑賞型の自主事業を実施するようになった。管理運営について、指定管理者制度の導入されたことが大きな転換期となり、現在もその制度で運営されている。館の運営方針を決める理念や活動方針等について議論され、平成25年に文化庁より「劇場法」が制定されるなど、公共施設として「ワークショップ」や「社会包摂事業」等の活動市民に対してサービスの提供の意義と手法について注目度が向上した。一方で、近年の公共施設の潮流として、人口減少と高齢化により館の使用頻度や利用者の減少から、施設の管理費を減らす動向がある。現場として、建物の管理運営費の削減を求めている。館の運営のスマート化のために床面積の縮小化が今後の設計では重要視されると語った。

これらの内容を含めて長谷川・兒玉両氏に意見を伺った。
 兒玉氏の神戸市西神中央ホールの事例からは、建築計画として、劇場のホールと図書館を繋ぐ廊下を工夫する事で、劇場の配置と庭園を外に広げ、劇場の利用者と、住民の生活空間を繋ぐコラボレーションする手法を取った。加えて、ホールを多目的ホールとしたことで、交流館としても利用できるようにすることで、より地域への密着度を高めた。建物の面積については、建物に時代に合わせて変化できる余地を残す設計を行っている。理由として、運営側が「これは使わないからいらない」という言葉をよく言われるが、理由が「いらないから」や、「今使う予定がないから」というだけで、将来使う予定がないかは別の話だと思っている。コストが膨らみすぎる物は効率的に外すべきですが、「やってもやらなくてもいいもの」であれば、「可能性」をなるべく残すことと、可変性を残すことで、劇場の可能性を残すことについて考えて行きたいと語った。
 長谷川氏の延岡市の市民会館では、敷地が延岡城の足元かつ目の前を通る大通りに面した立地で、会館内にギャラリーを設置する事が提案のひとつである。計画は、敷地の真中にホールを造り、通路を三方向に設置し、通路を通り抜けできるようにすることで、各道路にアクセスしやすい工夫を行った。加えて、通路をギャラリーとして使用することで、通行客にも開かれた展示空間を形成した。
 建物の面積の縮小については、企画が建築側に伝わる前に解決して頂きたい内容と話し、建築側として、与えられた面積で設計すると、プログラム通り収めたら面積は必ず不足する。基本的にロビー、ホワイエ、廊下の面積が足りません。そのためロビーとホワイエをいかに小さく作るかということと、その部分が機能性を持った空間として作ることに苦労したと語った。

 劇場法の制定と公共劇場建築のこれからの設計について意見を伺った。
 児玉氏は、劇場法の制定以降で、発注者及び運営者に意識が変わったと感じたことはなく、今の時点では変わらないが、徐々に変わっていくと思うと答えた。合わせて、現在の劇場法は定義的な段階であるので、もう少し詳細な内容で提示されるとより方向性が高まると思うので、まずは一歩一歩解釈しながら手法を磨いて次の時代に可能性を残していくという事と思っています。児玉氏にとって劇場法は、氏が設計を行う中でこれまで自身でも理念として主張していた内容が、劇場法という形で根拠ができたことが大きな所になりましたと語った。
長谷川氏は建物に対しての理解を持ち運営にサポートしてくれると長続きする秘訣だと語った。運営システムを一緒に作り上げるのがベストだが、しかし、それは建築家の仕事ではなく、館側の仕事であり、長い年月を費やして計画する必要があると語った。。

 今回お話頂いた事例から、劇場建築の計画において劇場法の制定や、建物の規模の縮小、運営形態の提案等は、長谷川・兒玉氏にとってはこれまでの設計活動の中で対峙してきた内容であった。長谷川氏は最後に、劇場は「楽しい」を目指した場であり、劇場を作る上での根源だと語った。劇場建築を取り巻く環境は日々変化し続けているが、それぞれの意見を肯定的に受け止め、糧とし意見を出し続ける姿勢こそが今後の劇場の今後を創っていくと思うことができるお話を伺うことができた。




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