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世界劇場会議名古屋 フォーラム2017開催報告

 
 
テーマ「進化する劇場」
日時:2017年6月9日(金)14:00~18:30
会場:愛知芸術文化センター12階アートスペースA
参加者数:約140人

実行委員2人からの報告を掲載します。

第1部 基調講演「私の劇場のつくり方」 報告:細井昭男((株)都市造形研究所)
講師:新居千秋
((株)新居千秋都市建築設計代表取締役/東京都市大学客員教授)

 長年にわたる新居氏の偉大な業績のエッセンスを惜しげもなく披露いただいた。
 これまでに14件の劇場建築の設計に携わってこられた第一人者である。日本では磯崎新氏の21件が最多で、新居氏と香山壽夫氏がほぼ同数でこれに続くという言及があった。磯崎氏の物件数がスラっと出てくるところあたり、強く意識されていることがわかる。そして「その次が私」という自負が垣間見える。現在も世界各国の劇場を見て回っているとのこと。劇場建築に向ける並々ならぬ熱意に会場は終始、圧倒されていた感がある。
 地域の劇場づくりにおいて、25年以上も前から、いち早く住民参加ワークショップを取り入れ、地域にたったひとつの建築をつくるために尽力されてきた。このために不均質な条件を全て受入れ、不均質な空間をつくることを大切にしてきたのだ、と説明がある。新居氏の独特な建築形態の源はどこにあるのだろうと常々考えていたが、曰く「別に私がこういう形にしようと思ってデザインしている訳じゃないんですよ。地域から出てきたアイデアや条件・要望を整理して、そのまま形にしているだけなんですよ。」とのことである。この言葉を額面通りに受け取るのは危険だが、長年にわたる仕事の中でデザイン形態の特徴が変遷しているのを見ても、利用者との対話の中からインスピレーションが生まれ、それぞれの物件において固有の解を探す行為に他ならないのだなと合点がゆく。また、近年は発達したコンピューターテクノロジーを駆使した設計手法の進展にも余念がない。音の良さを視覚的に見せること、BIMを導入して複雑な形態の設計を容易にすること等、あくなき探求心は衰えを知らない。
 以上、1時間半の講演全体を通して、すべてが有意義で刺激的な内容であった。「あくまで市民が主体だ」「プロセス自体が文化を育てる」「身の丈にあった施設に」「ハードとソフトのトータルデザインを」「100年の計でまちを考えるべき」「身体的なスケールで考えよ」「文化活動のネットワークを活用、アメニティストアという考え方を大切に」「文化的サスティナビリティを目指せ」等々、劇場関係者に向ける金言格言のオンパレードである。時に耳が痛く、時に勇気をいただく濃厚な時間であった。

第2部 劇場の再生 Part2  報告:戸谷田知成((一財)ちりゅう芸術創造協会 事業係 係長)

 第2部の劇場の再生 Part2と題し、老朽化した施設を現在の市民ニーズに合わせ見事に再生させた改修工事事例として2つの事例が紹介された。

 司会の右田氏より紹介があり、米子市公会堂の改修事例について、熊谷氏が登壇した。

事例①米子市公会堂
講師:熊谷昌彦(米子市工業高等専門学校名誉教授)

 最初にスライドショーで、施設への愛着あふれる演出として、米子市公会堂の全体像を多くの画像によって紹介された。スライドショーのしめくくりに、施設について評した言葉が「単純に見えるが機能的であり、そして米子市民にとっては大切な公会堂である」であり、この事例紹介の要点といえ、「米子市公会堂のリニューアル 私達は次世代に何を残そうとしているか」というタイトルにも、継承への強い意思が感じられた。
 1955年、市制30周年記念事業として「公会堂建設促進協議会」が設置され公会堂建設がすすめられた。工事費は176百万円余りになり、市民・企業等からの寄付が53百万円集められた。その背景には、市民の代表者ともいえる自治連合会が協議会メンバーとして、市民を巻き込み財政面を支えた。また、現在も連合会のメンバーが存命であり、後々の改修も支えている事が説明された。
 村野藤吾氏の建築思想で「建築は建ったその瞬間に完成するものではありません。施主、設計者、施工者が三位一体となって建築を創造した後に、居住者がそこに住みついて、それから何年、何十年も経て、はじめて本当の建築が完成するのです」という言葉のとおり、単に建物という観点だけでなくオープンスペースを設けるなど、利用者のことを見ていた。さらに辻晉堂という地元ゆかりの芸術家の作品も配置するほか、地域性を建物に取り入れることも意識し、曲面仕上げとなっている外壁タイルは、島根産の石見瓦で彩られている。
 1980年には、利便性等における課題により、改修が計画され米子市文化協議会が中心となり、市民が使いやすくするため、市民が色々なアイデアを出し、随所にその意見がとりいれられ、客席天井、ホワイエ音響等も考慮された施設となった。これらの経緯から公会堂は1958年に外部の骨格が、1980年に内部の意匠が整えられたともいえる。特に1980年の改修時にはホール天井や手摺のデザインが特徴的な内部意匠替えを村野氏が1980年86歳の時に取組み、新旧の村野氏の好みが併存して見られると解説された。
 公会堂は、2000年の「鳥取県西部地震(マグニチュード7.2)」の影響を受け、2010年3月の耐震診断結果で「震度6程度の地震で倒壊する危険な建物」という指摘を受け、同年9月末日をもって使用停止となることが発表された。この時も市民が動き「米子市公会堂の存続と早期改修を求める市民会議」として、陳情・署名活動を展開。最終的に49,469筆。人口の約1/3の署名集め、市議会、市民アンケートを経て、「公会堂を改修保存したい」とする事となった。
その後「米子市公会堂市民会議」が発足し、2011年8月プロポーザルにより、日建設計+桑本総合設計(地元設計事務所)で決定され、改修にあたっては「耐震補強」「ホール内装改修」「ホール音響設計」「外装改修」いずれのテーマにおいても村野藤吾氏の設計思想を尊重することを第一に考え進められたとあった。
リニューアル後のアンケートでは歴史的建築物、文化芸術活動に影響しているという意見が強く見られた。また、「歴史的価値は分かるがお金をかける以上は投資効果を明示する必要が有る」という意見もあり、これは今後の課題といえる。利用者、企業ふくめ総じて、改修当時、どちらでもないとしていた方も、存続して良かったという評価に転じている。
 最後のまとめとして、講師の熊谷氏が考える村野氏の建築物へのこだわりが視覚でなく触覚を重視しており、その事により、建築物の持つ愛着感、したしみ感を感じさせてくれるのではないか。また、かつては手触り、嗅覚、味覚などで感じていたものが、視覚のみに傾向している事に、村野氏の作品が何らかの事を教えてくれるのではないかと思うと語った。

事例②岡崎市民会館
講師:岡崎市 社会文化部文化振興課文化振興係主任主査 柘植博之 
岡崎市 建築部 建築課 建築係 係長 兼原 健

 続いて、壇上の準備が整い司会の右田氏により事例②岡崎市民会館の概要紹介として、1967年に開館、2016年に大規模改修会が行われリニューアルオープンした旨などが紹介された。
 事例紹介では、岡崎市役所 柘植博之氏と兼原健氏が紹介された。柘植氏が施設の改修に至る経緯を説明し兼原氏が実際の工事について説明することで案内があり、講師2名が登壇した。
 市民会館は1967年、昭和42年にオープンし、50年が経過する歴史を持つ。平成20年「新文化会館整備基本構想」が策定され新施設建設という位置づけですすめていたが、平成24年10月の市長選で、新市長が当選し、経費面や市民のランドマーク的な施設である事をふまえ、新施設の計画は再検討となったと説明された。
 その際、既存の施設の耐久性を調査し躯体及び大規模な改修により20年以上の耐久性を備えることが判明し、延命化の動きとなり平成25年5月には「岡崎市民会館改修方針検討委員会」を設置し、現状どういったことが不足し、今後20年の間に何が求められるかを話し合い大まかに課題と改善点の意見がまとめられた。
そういった課題・問題点の中で、どういった改修ができるかをプロポーザル方式で図られた。具体的には舞台の奥行きに関して、客席部に舞台部分を張り出して5m程奥行きを拡大した。このことや客席自体の改善により、席数が削られ1,100席となった。吊天井の問題は、音響改善とも結びつけて実施された。空調ダクトは騒音対策のために外部ダクトとし、公演時の騒音の低減を図った。音響反射板、音響機器類、舞台機構、照明機器などを更新したほか、駐車場のフラット化、施設のバリアフリー化、今後の会館運営をふまえた情報コーナー・ボランティア施設の新設などがすすめられたと説明された。
 改修にかかる経費として、27年度内訳国県の支出金に11,738千円の吊天井改修に伴う、社会資本整備事業費補助金を国の方から得ているが、資料は抜けているので修正いただきたい。また、2か年度に渡る工事で33億6千万円ほどかかる工事となったことが説明された。昨年10月1日にリニューアルオープンとなり、市制100周事業も開催、今後も文化の中心となる施設であるので、市民の皆様に長く活用してもらえる施設として、運営面・ソフト面の充実を課題に活用を進めていきたいとまとめられた。
 続いて兼原氏が登壇した。
 市民会館は、会議棟は同一棟の建物で、その他は別棟。用途地域は第一種住居地域で平成8年に用途地域指定の変更があり住居地域から第一種住居地域になっており、用途地域自体に関しては既存不適格状態であり、これがネックである。風致地区に指定されており、建ぺい率が40%で、これは実際の建ぺい率が39.37%からも察しが付く様に、設計者、担当者ともに非常に苦労したと説明があった。
 設計は公募型プロポーザル方式で選定し、業者選定から実施設計の終わりまで本来なら2年くらい必要な量を1年で実施。代表者は株式会社日建設計名古屋オフィスで、構成員は日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社。
工事の請負業者は鴻池・杉林特定建設工事共同企業体で、請負金額はホール棟改修工事のみで2,642,957,640円となり、工期としてH27年6月23日から28年8月31日で実質の工事期間は9月1日から7月一杯で、実質11か月で、8月一杯は音響の試験に充てた。
 法律上の整理で、建築基準法の面では、用途制限による面積制限がある延べ床面積は基準時の1.2倍で余裕はあったのですが、建築面積の風致地区の40%という基準が厳しく、既存不適格事項がたくさんあり、同一棟の増築の場合、既設建築物まで現行法が適用されるため楽屋の増築をしたので別棟対策として増築するという方法をとるなど法律上の観点を意識し工夫を重ねた。
 改修前は残響音が短く空席時に1.57秒(500Hz)となっており、空調騒音がNC-30~35、ホールの屋根から音を拾ってしまうという事があった。対策としてホール内の容積が小さいので、特定天井という事もあり天井を撤去、ホール扉の二重化、内装壁に吸音面が多いため、吸音面の減少、屋根にフレキシブルボードと断熱材を追加して、空調を外ダクトに変更している。その結果音響反射板中編成・空席時で残響音が1.86秒(500Hz)に改善された。空調騒音についても、音響反射板形式で現場のがんばりもありNC-20まで達成された。

 最後に、改修における課題として、工事内容に即した工期の確保が必要なこと。仮設資材の搬入で可能であれば仮設の搬入口を確保すると現場がスムーズにいく。既設の建物の測量に時間がかかるので、できるなら経費は不明だが3Dスキャナーの活用を。既設建具のフロアーヒンジがすべて壊れていたので交換が必要。ガラス押さえのやり替えも必要。気流の変化に注意することなどがあげられた。開館までの準備期間は2~3か月あると、想定外の不具合に対応もできる。日建設計・鴻池と音響だけは妥協しないでいこうという話をして、残響音の基準を守れたし、その結果高評価をいただいているとまとめられた。

以上
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