イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その6
- 2014-10-22
報告者:仙南芸術文化センター(えずこホール)所長 水戸雅彦
6月7日(土)レスター、カーブシアター見学、マギー・サクソンのセミナー
ロンドンに近い(と言っても1時間半くらいの距離)レスターにあるカーブシアターを見学。外観はガラス張りの近代的な建物。内部も斬新なデザインが施されたスタイリッシュな構造になっている。コンセプトはinside out(中が外、裏返し)、主ホール(802席)の舞台そでの壁を飛ばすと客の通路だったり、舞台背面の壁を飛ばすとスタジオシアター(282席)と繋がっていたり、なかなか斬新な作りとなっている。しかし、役者が客席通路を通って舞台に行かなければならないとか、吹き抜け構造のため目の前にある研修室に、ぐるっと迂回しなければたどり着けないとか、事務室が3Fの片側に一列に細長く配置されており窓がないとか(外観がガラス張りの建物なのにアンバランスな感じだ)。ひとしきり見学した後の感想としては、これはなかなか使い勝手の悪い劇場だなという感想を持った。案内してくれたスタッフもunfortunately(不幸にも、残念ながら)という言葉を乱発していた。
マギー・サクソンのセミナー
マギー・サクソンは、現在フリーの劇場コンサルタントで、イギリスピーターバラにあるキーシアターの経営監督を務めている。また、現在のWYPの基礎を芸術監督のジュード・ケリー(現ロンドン・サウスバンクセンター芸術監督)とともに経営監督として築いて、そののちにかつてローレンス・オリビエが初代芸術監督をした英国の名門地域劇場であるチェスター・フェスティバル劇場の再建を芸術評議会の要請で行いその手腕を高く評価されている人物である。
以下要旨
ソーシャルインクルージョン(社会包摂)という言葉は、1997年トニー・ブレアが、パブリックフォーラムで初めて使いました。しかし、言葉自体はもっと古くからあるものです。現在、劇場が公的助成金を得るには、社会包摂のプログラムを実施しなければならない状況です。コミュニティには、男女、人種、宗教、年齢、障害(身体的・知的)、恵まれた立場にある人、恵まれない立場にある人などさまざまな人たちがいます。それぞれに働きかけていく必要があります。
(ex. 1999年,イギリスの首相であったトニー・ブレアは「子どもの貧困を未来永劫,社会からなくす。そして,それを2020年までに一世代かけて実行する」と公約した。子どもの貧困法が2010年に制定され,2020年までに撲滅するということが法文化され,これを試みないと政府にとって違法になる。)
恵まれた立場にある人と恵まれない立場にある人との間にはバリアがあります。そして、恵まれない立場にある人は文化芸術にふれられないという環境があります。さまざまな芸術機関は国から助成を受けていますが、それを恵まれた立場にある人だけに向けてプログラムを展開するのはおかしい。
では、どうするか。
私(マギー・サクソン)は、白人で、ミドルクラス(中産階級)で、恵まれた環境にいます。ノースハンプシャーに住んでいて、アビーバーというスポンサーの付いたラグビーチームがあり優勝しました。私はラグビーのルールは知らないのですが、試合を見ていてゴールが決まると沸くし興奮します。また、クリケットを学校で習って好きになり、今でも細かいことを覚えています。今夏にはイングランド×インド戦を見に行きます。なぜ、文化の話でスポーツの話をするかというと、文化とスポーツを並行で考えてソーシャルインクルージョンとディスクルージョンについて話したいと思うからです。
たとえば、絵を描いたりお芝居を演じたことのない人が、どうやって劇場やアートセンターに足を運べるでしょう。彼らはそのやり方がわからない。それはそのまま機会がなかったということです。ですから、体験できる状況を作っていくということ、それが最初の問題です。
ではどうするか、
人が人を排除するのがよくないとわかったらインターアクション(交流(する)、相互作用(する))すべきです。それをしていくのがソーシャルインクルージョン(社会包摂)のプログラムです。
ブレアがソーシャルインクルージョン(社会包摂)を唱えたのは素晴らしいことですが、その前からソーシャルインクルージョン(社会包摂)が大切だと言っていた人たちはいました。
WYPの初代の芸術監督のジュード・ケリーはすでにWYPでソーシャルインクルージョンプログラムを展開していました。そしてそれがブレアに影響を与えました。
ヘイデイズは、ジュード・ケリーが25年前に作ったものです。絵画、文学を読む、ディベート、フィットネスなどいろいろなプログラムを立ち上げました。サイバー・カフェもWYPのロビーの一角に作りました。お年寄りたちが無料でPCをどう使うか。WYPに来ていた若者たちが教えて、若者とお年寄りの交流の機会となりました。いろんな人たちが共存していく。それが一番の根底にあります。
重要なことは、行政から助成金をもらうためにソーシャルインクルージョン(社会包摂)プログラムをやるのか、劇場が必要だと思ってやりその結果として助成金がつくのかということです。WYPは助成金のあるなしにかかわらず考えてきました。格差社会がよくないという強い意志が必要です。人間の尊厳に対する畏敬の念とビジョンが必要です。そして社会包摂と文化政策の統合が必要だという共通認識が必要です。その中から戦略が生まれます。
アーツカウンシルは素晴らしいプログラムを作っています。そして文化機関を選び他の機関に広めていきました。そして、お客を増やすのが一番ではなく、参加型プログラムを導入するということを導入していきました。
オールドビック劇場のピーター・チーズマンはドキュメンタリーシアターで有名です。ドキュメンタリーシアターとは、地域の人たちの個人の話をインタビューし、それをもとにプロが演劇作品を作る手法。オールドビック劇場の地域は、労働者階級が多く、そういった人たちを題材にした作品をたくさん作りました。たとえば、鉄工所が閉鎖されようとしている。住民、政治家、いろいろな立場の人たちに話を聴いてプロの役者、スタッフで物語を作り上演する。それを見て地域の人たちはこれは私たちの物語だと感じるというわけです。
私は、今キャパ350席と112席のホールを持つキーシアターというところで仕事をしています。商業的劇場で、公的助成は0です。ビバシティというところで、図書館、ギャラリー、博物館も運営しています。ほとんど地域に関わらない劇場でした。そこでまず地域の人たちと話をしました。そして信頼を築いてからダンスシアターと一緒に学習障害の人たちのプログラムをやりました。
また、月1回日曜の午後、地域のブラスバンドが演奏します。バンドはいろんなことを試せます。コミュニティ・オーケストラです。クラシックとジャズをミックスしたものです。インド系の人たちが多いので、リーダーと話をしてグジュラティ地区のもの、ボーリーウッドの映画を上演したりしています。
現在、アーツカウンシルの新しい助成金で、地域の人たちが創造的な作品を作るのに取り組んでいます。いろんな地区からブリッジリーダーを選び、それらの人たちで話し合い、排除されていた地域の人たちに届くプログラムを作ります。
*
アーツカウンシルから定期的に助成を受けている団体数について質問すると、約50館だという。これはイギリス全体なのかイングランドだけなのか確認しないでしまったが、おそらくイングランドだけなのだと思う。
いずれ、マギーの話は快刀乱麻を断つごとく明快な喋り方で、その考え方は確信に満ち溢れていた。「重要なことは、行政から助成金をもらうためにソーシャルインクルージョン(社会包摂)プログラムをやるのか、劇場が必要だと思ってやりその結果として助成金がつくのかということです。WYPは助成金のあるなしにかかわらず考えてきました。格差社会がよくないという強い意志が必要です。人間の尊厳に対する畏敬の念とビジョンが必要です。そして社会包摂と文化政策の統合が必要だという共通認識が必要です。」という言葉が心に深く響いて余韻となって残っている。
▲レスター、カーブシアターの外観
▲マギー・サクソンのセミナー、とても内容の濃いセミナーであった。
*当初予定していた、英国芸術評議会のパーバラ・マシュズ氏と意見交換会については、都合によりマギー・サクソン氏のセミナーに変更となった。マギー・サクソン氏は、英国の文化芸術プログラムの専門家であると同時に、英国芸術評議会ともも密接な関係性を持って活動をしている人物であり、講師が変わったものの、イギリスの文化の現状、文化政策の考え方、今後の展望など、非常に興味深く奥の深い内容のお話を聴くことができた。
まとめ
英国の優れた地域劇場の特質、共通点は下記のようなものである。
1.時にロンドン公演、地方公演にかけられるほどの優れた舞台作品を制作し、地域のアイデンティティ、誇りを醸成する質の高い文化・芸術活動を展開している。
2.地域に密着したアウトリーチ事業、普及事業(エデュケーションプログラム)、コミュニティプログラムを展開しており、劇場が地域及び地域住民と繋がる事業を幅広い対象に向けて多彩に展開している。特に社会的に恵まれない貧困層に対して、他の社会機関と連携して働きかけ、アートという手法を使い社会参加を促す事業を積極的に展開している。
3.上記事業展開の根底には、ソーシャルインクルージョン(社会包摂)の考え方がしっかり共通認識として存在し、事業達成に向けたはっきりしたイメージと強い意志がその推進力となっている。
日本の地域劇場の問題点と今後の展望。
1.日本の地域劇場においては、経験者が不足しており、更に人材育成に十分に取り組まれていないことにより、事業の内容がまだまだ充実したものとはなっていない。更に指定管理者制度の導入により、有期雇用職員が増え、この状況に拍車をかけている。人材の確保とその育成、身分と賃金の安定化が喫緊の課題である。
2.ソーシャルインクルージョン(社会包摂)の考え方がまだまだ一般化しておらず、主たる事業は舞台公演。また、ワークショップ等においても、文化芸術を愛好する人たち向けの事業が圧倒的に多い状況となっている。今後、0歳から100歳まで幅広い対象に向けて社会包摂を念頭に置いた各種事業を積極的に展開していく必要がある。
3.「国や地方は人がつくる、人をつくるのは文化芸術である」という言葉がある。文化芸術は、社会的、時間的、経済的に余裕のある一部の市民のためのものという考え方がいまだに根強いが、すべての市民にとって必要なものであり、それなくして社会の豊かさと幸福はあり得ないものである。成熟した社会は成熟した文化を持つ。文化の衰退する社会とは社会そのものが衰退していることを意味している。これらのことを共通認識とし、すべての市民が創造的に活性化していく事業を各種展開し、そのことにより社会の活性化を促進し、豊かで幸福な社会の醸成の一翼を担っていくのが地域劇場の使命である。
以上
6月7日(土)レスター、カーブシアター見学、マギー・サクソンのセミナー
ロンドンに近い(と言っても1時間半くらいの距離)レスターにあるカーブシアターを見学。外観はガラス張りの近代的な建物。内部も斬新なデザインが施されたスタイリッシュな構造になっている。コンセプトはinside out(中が外、裏返し)、主ホール(802席)の舞台そでの壁を飛ばすと客の通路だったり、舞台背面の壁を飛ばすとスタジオシアター(282席)と繋がっていたり、なかなか斬新な作りとなっている。しかし、役者が客席通路を通って舞台に行かなければならないとか、吹き抜け構造のため目の前にある研修室に、ぐるっと迂回しなければたどり着けないとか、事務室が3Fの片側に一列に細長く配置されており窓がないとか(外観がガラス張りの建物なのにアンバランスな感じだ)。ひとしきり見学した後の感想としては、これはなかなか使い勝手の悪い劇場だなという感想を持った。案内してくれたスタッフもunfortunately(不幸にも、残念ながら)という言葉を乱発していた。
マギー・サクソンのセミナー
マギー・サクソンは、現在フリーの劇場コンサルタントで、イギリスピーターバラにあるキーシアターの経営監督を務めている。また、現在のWYPの基礎を芸術監督のジュード・ケリー(現ロンドン・サウスバンクセンター芸術監督)とともに経営監督として築いて、そののちにかつてローレンス・オリビエが初代芸術監督をした英国の名門地域劇場であるチェスター・フェスティバル劇場の再建を芸術評議会の要請で行いその手腕を高く評価されている人物である。
以下要旨
ソーシャルインクルージョン(社会包摂)という言葉は、1997年トニー・ブレアが、パブリックフォーラムで初めて使いました。しかし、言葉自体はもっと古くからあるものです。現在、劇場が公的助成金を得るには、社会包摂のプログラムを実施しなければならない状況です。コミュニティには、男女、人種、宗教、年齢、障害(身体的・知的)、恵まれた立場にある人、恵まれない立場にある人などさまざまな人たちがいます。それぞれに働きかけていく必要があります。
(ex. 1999年,イギリスの首相であったトニー・ブレアは「子どもの貧困を未来永劫,社会からなくす。そして,それを2020年までに一世代かけて実行する」と公約した。子どもの貧困法が2010年に制定され,2020年までに撲滅するということが法文化され,これを試みないと政府にとって違法になる。)
恵まれた立場にある人と恵まれない立場にある人との間にはバリアがあります。そして、恵まれない立場にある人は文化芸術にふれられないという環境があります。さまざまな芸術機関は国から助成を受けていますが、それを恵まれた立場にある人だけに向けてプログラムを展開するのはおかしい。
では、どうするか。
私(マギー・サクソン)は、白人で、ミドルクラス(中産階級)で、恵まれた環境にいます。ノースハンプシャーに住んでいて、アビーバーというスポンサーの付いたラグビーチームがあり優勝しました。私はラグビーのルールは知らないのですが、試合を見ていてゴールが決まると沸くし興奮します。また、クリケットを学校で習って好きになり、今でも細かいことを覚えています。今夏にはイングランド×インド戦を見に行きます。なぜ、文化の話でスポーツの話をするかというと、文化とスポーツを並行で考えてソーシャルインクルージョンとディスクルージョンについて話したいと思うからです。
たとえば、絵を描いたりお芝居を演じたことのない人が、どうやって劇場やアートセンターに足を運べるでしょう。彼らはそのやり方がわからない。それはそのまま機会がなかったということです。ですから、体験できる状況を作っていくということ、それが最初の問題です。
ではどうするか、
人が人を排除するのがよくないとわかったらインターアクション(交流(する)、相互作用(する))すべきです。それをしていくのがソーシャルインクルージョン(社会包摂)のプログラムです。
ブレアがソーシャルインクルージョン(社会包摂)を唱えたのは素晴らしいことですが、その前からソーシャルインクルージョン(社会包摂)が大切だと言っていた人たちはいました。
WYPの初代の芸術監督のジュード・ケリーはすでにWYPでソーシャルインクルージョンプログラムを展開していました。そしてそれがブレアに影響を与えました。
ヘイデイズは、ジュード・ケリーが25年前に作ったものです。絵画、文学を読む、ディベート、フィットネスなどいろいろなプログラムを立ち上げました。サイバー・カフェもWYPのロビーの一角に作りました。お年寄りたちが無料でPCをどう使うか。WYPに来ていた若者たちが教えて、若者とお年寄りの交流の機会となりました。いろんな人たちが共存していく。それが一番の根底にあります。
重要なことは、行政から助成金をもらうためにソーシャルインクルージョン(社会包摂)プログラムをやるのか、劇場が必要だと思ってやりその結果として助成金がつくのかということです。WYPは助成金のあるなしにかかわらず考えてきました。格差社会がよくないという強い意志が必要です。人間の尊厳に対する畏敬の念とビジョンが必要です。そして社会包摂と文化政策の統合が必要だという共通認識が必要です。その中から戦略が生まれます。
アーツカウンシルは素晴らしいプログラムを作っています。そして文化機関を選び他の機関に広めていきました。そして、お客を増やすのが一番ではなく、参加型プログラムを導入するということを導入していきました。
オールドビック劇場のピーター・チーズマンはドキュメンタリーシアターで有名です。ドキュメンタリーシアターとは、地域の人たちの個人の話をインタビューし、それをもとにプロが演劇作品を作る手法。オールドビック劇場の地域は、労働者階級が多く、そういった人たちを題材にした作品をたくさん作りました。たとえば、鉄工所が閉鎖されようとしている。住民、政治家、いろいろな立場の人たちに話を聴いてプロの役者、スタッフで物語を作り上演する。それを見て地域の人たちはこれは私たちの物語だと感じるというわけです。
私は、今キャパ350席と112席のホールを持つキーシアターというところで仕事をしています。商業的劇場で、公的助成は0です。ビバシティというところで、図書館、ギャラリー、博物館も運営しています。ほとんど地域に関わらない劇場でした。そこでまず地域の人たちと話をしました。そして信頼を築いてからダンスシアターと一緒に学習障害の人たちのプログラムをやりました。
また、月1回日曜の午後、地域のブラスバンドが演奏します。バンドはいろんなことを試せます。コミュニティ・オーケストラです。クラシックとジャズをミックスしたものです。インド系の人たちが多いので、リーダーと話をしてグジュラティ地区のもの、ボーリーウッドの映画を上演したりしています。
現在、アーツカウンシルの新しい助成金で、地域の人たちが創造的な作品を作るのに取り組んでいます。いろんな地区からブリッジリーダーを選び、それらの人たちで話し合い、排除されていた地域の人たちに届くプログラムを作ります。
*
アーツカウンシルから定期的に助成を受けている団体数について質問すると、約50館だという。これはイギリス全体なのかイングランドだけなのか確認しないでしまったが、おそらくイングランドだけなのだと思う。
いずれ、マギーの話は快刀乱麻を断つごとく明快な喋り方で、その考え方は確信に満ち溢れていた。「重要なことは、行政から助成金をもらうためにソーシャルインクルージョン(社会包摂)プログラムをやるのか、劇場が必要だと思ってやりその結果として助成金がつくのかということです。WYPは助成金のあるなしにかかわらず考えてきました。格差社会がよくないという強い意志が必要です。人間の尊厳に対する畏敬の念とビジョンが必要です。そして社会包摂と文化政策の統合が必要だという共通認識が必要です。」という言葉が心に深く響いて余韻となって残っている。
▲レスター、カーブシアターの外観
▲マギー・サクソンのセミナー、とても内容の濃いセミナーであった。
*当初予定していた、英国芸術評議会のパーバラ・マシュズ氏と意見交換会については、都合によりマギー・サクソン氏のセミナーに変更となった。マギー・サクソン氏は、英国の文化芸術プログラムの専門家であると同時に、英国芸術評議会ともも密接な関係性を持って活動をしている人物であり、講師が変わったものの、イギリスの文化の現状、文化政策の考え方、今後の展望など、非常に興味深く奥の深い内容のお話を聴くことができた。
まとめ
英国の優れた地域劇場の特質、共通点は下記のようなものである。
1.時にロンドン公演、地方公演にかけられるほどの優れた舞台作品を制作し、地域のアイデンティティ、誇りを醸成する質の高い文化・芸術活動を展開している。
2.地域に密着したアウトリーチ事業、普及事業(エデュケーションプログラム)、コミュニティプログラムを展開しており、劇場が地域及び地域住民と繋がる事業を幅広い対象に向けて多彩に展開している。特に社会的に恵まれない貧困層に対して、他の社会機関と連携して働きかけ、アートという手法を使い社会参加を促す事業を積極的に展開している。
3.上記事業展開の根底には、ソーシャルインクルージョン(社会包摂)の考え方がしっかり共通認識として存在し、事業達成に向けたはっきりしたイメージと強い意志がその推進力となっている。
日本の地域劇場の問題点と今後の展望。
1.日本の地域劇場においては、経験者が不足しており、更に人材育成に十分に取り組まれていないことにより、事業の内容がまだまだ充実したものとはなっていない。更に指定管理者制度の導入により、有期雇用職員が増え、この状況に拍車をかけている。人材の確保とその育成、身分と賃金の安定化が喫緊の課題である。
2.ソーシャルインクルージョン(社会包摂)の考え方がまだまだ一般化しておらず、主たる事業は舞台公演。また、ワークショップ等においても、文化芸術を愛好する人たち向けの事業が圧倒的に多い状況となっている。今後、0歳から100歳まで幅広い対象に向けて社会包摂を念頭に置いた各種事業を積極的に展開していく必要がある。
3.「国や地方は人がつくる、人をつくるのは文化芸術である」という言葉がある。文化芸術は、社会的、時間的、経済的に余裕のある一部の市民のためのものという考え方がいまだに根強いが、すべての市民にとって必要なものであり、それなくして社会の豊かさと幸福はあり得ないものである。成熟した社会は成熟した文化を持つ。文化の衰退する社会とは社会そのものが衰退していることを意味している。これらのことを共通認識とし、すべての市民が創造的に活性化していく事業を各種展開し、そのことにより社会の活性化を促進し、豊かで幸福な社会の醸成の一翼を担っていくのが地域劇場の使命である。
以上