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イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その5

 
2014-10-22
報告者:仙南芸術文化センター(えずこホール)所長 水戸雅彦


6月6日(金)シェフィールド・シアター

シェフィールド・シアターは、3つの劇場(建物は2つ)から成り立っている。一つはライシュン劇場。1850年開館。1960年に一度閉館したが、1990年に改修工事を行い再開した。オーデトリアムは、古き良き時代の劇場の雰囲気をそのまま残しながらも、機能だけリファインしたという感じで、とてもいい感じの劇場であった。もう一つが近代的な建物で1970年に開館した。この中にクルーシヴル劇場とスタジオ劇場がある。それぞれ演目で性格分けを行っており、ライシュン劇場では、ロンドン・ウェストエンドなどからくる商業演劇等を買い公演として上演、収入元としている。クリスマスのみ特別企画のみ制作公演を上演している。新しい劇場は制作劇場であり、特にスタジオ劇場は200席ほどの空間で、実験的な作品にトライしている。シェフィールド・シアターは、2013~2014年2年連続ザ・ステージアワードによりベスト地域劇場に選ばれている。
ミッションは、「私たちは、ライヴアートが、人々の生き方を根底から変えていくと信じています。私たちが提供する、上質で多様で、市民生活を拡張していくプログラムで、シェフィールド、ひいては遠方に住む人々も含め、笑いと涙と深い思索を喚起し引き出します。」とある。
シェフィールド・シアターは、シアター・イン・エデュケーション(学校教育に演劇を持ち込むプログラム)の発祥の地でもある。さまざまな市民向けプログラムも実施している。
4~3月で年間200本のプログラムを実施している。

シアターバンガード:シアター・イン・エデュケーション。何週間かかけて学校で演劇作品を作り劇場にかける。学校の先生に指導方法を教え、その先生が生徒を指導する。舞台プランはプロが担当、それ以外はすべて生徒が担当する。

Live for 5:16~26歳までの若者は5ポンド(約900円)でチケットが買える。

ワークエクスペリエンス:劇場がどのように演劇作品を制作するのか体験する1週間のコース。
その他学校向けワークショップ:劇場で上演する作品にリンクしたもの。学校でさまざまなワークショップを開催。スキルワークショップ、プレイリーディングetc.
シアターツアー、シアタートークの要望が高い。

Sheffield people’s theatre(市民劇団):12歳以上誰でも参加できる。4~7月。これまで3作品を制作。今年は「シェフィールド・ミステリーズ」を制作。300人が応募し、オーディションにより12~80歳、94人が出演することになった。オーディションに漏れた人たちには、ワークショップに参加してもらい、次回に参加してもらえるよう配慮している。また、今まで劇場に来たことのない地域に出かけて行ってオーディションやワークショップを行い参加を喚起している。稽古期間は約3か月間、毎週月~金曜日午後6時~9時、土曜日は1日。military positionミリタリーポジション(軍隊式に割り振られた)の稽古スケジュールで稽古・制作している。

Ex.ソマリアの10歳の女の子が参加、英語を全く喋れない状況だったが、文化の違いに適応し学校へ行けるようになり、全く違う人生を歩むようになった。
*ミステリー・プレイ=中世の聖書の物語。シェフィールド・ミステリーズは、それを現代のシェフィールドに設定して書き換えた作品。
*市民劇団のミッション「エキサイティングでチャレンジングで大胆で、芸術的に質の高い作品を制作し、12歳以上の市民を巻き込んで制作する。参加者は情熱があればそれで十分である。」
その他ソーシャルプログラムも実施:元気な市民になる。孤立した人たちが知り合いを作る。貧富の差があるので、どちらかというと貧しい地区を対象として、様々な人種、格差のある人たちが相互理解していくようなプログラムを展開している。
チケットの売り上げの高いエリアは、富裕層が多く、健康な人が多い。貧困層より20歳長生きする。

シェフィールド・シアターの収入は、チケット収入が59%、レストランの売り上げが13%で実に収入の72%が自主財源。公的補助は16%でこれまで見てきた劇場の中では最も低い。ライシュン劇場が商業的な演目で売り上げを確保していることがその大きな理由と思われるが、他の地域劇場に比べて足腰が強いということがいえるのだと思う。それにしても2年連続ベスト地域劇場はすごい。


▲1850年開館のライシュン劇場


▲クルーシヴル劇場


「その6」へ続く
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