トークサロン「山・鉾・屋台行事」報告

 
2017-9-11
報告者:中島貴光(大同大学工学部建築学科 准教授)

去る8月18日、栄ガスビルにてITC主催のトークサロン「山・鉾・屋台行事」が開催された。講師に民俗芸能研究家の鬼頭秀明氏を迎えて、ユネスコ世界無形文化遺産に登録された「山・鉾・屋台行事」についてご講演いただいた。鬼頭氏は長年にわたって、民俗芸能の研究に携わられており、とりわけ東海地方の祭礼行事に造詣が深い。本トークサロンでは【(1)ダシと山・鉾・屋台】、【(2)「囃すもの」と「囃されるもの」】、【(3)東海地方の「山・鉾・屋台行事」】、以上の3つのテーマに即してお話いただいた。以下に、流れに沿って振り返って見たい。
 はじめにITCN副理事長・山出氏より紹介があり、鬼頭氏が登壇された。つかみとしてユネスコ世界無形文化遺産に祭礼行事33件が登録されるに至った経緯・概略について、またマスメディアの報道などにより注目が集まっている現状について語られた後、本題へと展開してゆく。
 【(1)ダシと山・鉾・屋台】では「ダシ」という呼称の由来についての解説がなされた。全国各地で見られる作り物風流における総称が「ダシ」とのことである。地域によって祭礼のあり方・発展して来た経緯も異なれば、名称も異なり、「ヤマ」、「ホコ」、「ダンジリ」など多くの呼称が確認できるとのことであり、大変興味深い。また、元々は鉾の先の飾り物の部分名称が全体名称に発展したものであり、江戸から明治時代にかけての東京において定着して来たとのこと。神が宿る町印に、車がつき、太鼓(囃子)を載せ、曳山化したものが江戸型山車の原型であるとの説明がなされた。
 次の【(2)「囃すもの」と「囃されるもの」】では、近世以降、多様化した都市祭礼の解釈の切り口について語られた。従来、民俗学者・折口信夫氏が『髯籠の話』の中で言及した依代論が定説とされて来た。しかし、それだけでは読み解くことのできない祭礼行事もあり、近年では「囃すもの=囃子」、「囃されるもの=依代」の二つの舞台装置に分けて捉えられるようになって、これまでの疑問が氷解したとのことである。青森の弘前ねぷたまつりを例にとっても、囃されるものとしての行灯と、お囃子が分かれており、これは七夕の疫神送りの風習から発展して来たものと考えられるとのことである。
 最後の【(3)東海地域の「山・鉾・屋台行事」】では、鬼頭氏が長年をかけて収集された貴重な事例写真を数多ご披露いただいた。山車祭りの原点と言われる京都の祇園祭を皮切りに、尾張津島天王祭、知立まつり、犬山祭、亀崎潮干祭など代表的な東海地域の祭りをユニークなエピソードを交えながら次々と紹介された。今回、ユネスコ世界無形文化遺産に登録された33件のうち東海三県だけで11件と全体の1/3を占めており、特にダシ祭礼が多い地域ということがわかる。また、特にからくり人形を用いた祭礼行事が多いのがこの地域の特徴とのこと。中世の稚児芸能から発展し、近世以降、からくり人形を用いた祭礼行事が伊勢湾から富山湾にかけてのエリアで広がっていったとの見解を示された。
 長時間に渡り、緻密なフィールドワークに基づく貴重な体験からご講演いただいた鬼頭氏にこの場を借りて改めて謝意を表したい。




英国地域劇場スタディツアー

 
2015-2-6
私にとって今回のツアーは初海外。
初の海外旅行がイギイス、ましてや9日間も。何て贅沢な・・・と思いつつも、色々な劇場が見学できるなんて、それも通訳付き。語学力の乏しい私にとってはこんなにありがたいツアーはどこを探しても無い!と「行きたい。観てみたい。」その気持ちだけで旅立った。
もう既に何名かの方がエッセイを書いていらっしゃるので、私は掻い摘んで。

 WYP(ウエスト ヨークシャー プレイハウス)はイギリス国内でも積極的に事業を展開している劇場のひとつ。この劇場で2日間過ごせたことはとても貴重であった。
文化プログラムを通して地域の住民を孤立させないという考え方のもとに、高齢者向けに1日にたくさんものプログラムを開催しているのだと思う。数種類のプログラムを用意すれば来館する高齢者も多くなり、オープンスペースで実施することにより広報もできている。
また劇場内のあらゆるディスプレイが事業と連携していて、トイレ(個室)の中のドア全てにフレームに入ったチラシが飾られていたり、講座の時間内だけではあるが、参加者が作った作品をバーカウンターにおしゃれに展示することで、“自分の作品を飾ってもらいたい”というモチベーションを上げるような手法も垣間見えた。
劇場の中にあるレストランにもたくさんのお客さんがいて、プログラムの参加者だけではなく、ただ単に食事やお茶をしに来ているだけの人達も多くみられ、市民の憩いの場所になっていることは間違いないようだった。
WYPは二つの建物を所有しており、ひとつはホールや会議室を常備した劇場で、もう一つは青少年の更生を対象にしたプログラム(PG)を実施するための建物。事業内容の住み分けがきちんとされていて、青少年に対してのPGには必ずステップアップのPGも用意されている。
ここのPGを受ければ、進学や就職が可能になるという道筋があるので、参加者も目的意識を持って参加している。
ただ短期のPGを実施するのではなく、後々のことも考慮した、繋がるような長期計画を持った事業展開は学ぶべきことが大きかった。
そして企画を考える時には必ず専門家(専門的な知識や経験を有する人)のアドバイスを
受けたり、資料収集等を行うことにより、企画担当者個人の事業にならないよう情報の共有をして時間をかけて実施に繋げている面では、本当にやりたい事業=やらなければならない事業とし、自信を持って実施している部分は、単年計画で事業を考えることが多い現状を考えなおさなければと感じた。
 今回視察に行ったどの劇場も芸術監督がいて、常にどのようなPGを実施すれば行政や国が認めてくれるか?助成金を出してくれるかを考えている。
またそこに勤務する職員が、同じ目標(方向)を目指して企画制作をしているので、事業に統一性があり成果も上がるように思えた。
また市民参加型の事業がほとんどで、創造事業をしない(出来ない)劇場は、本来の劇場としての役割を果たしていないとみなされる。これは「劇場法」にうたわれている文言と共通するところがあり、我が国の“文化芸術”に関しての認識や必要性(重要性)の低さや遅れを痛切に感じた。
自分の劇場だからこそ創れる醍醐味をもっと経験し、地域との連携・協力を得ながら劇場を盛り上げる事業展開を考えなければならないとも思った。
市民に愛される定着した劇場になるためには、そこに在職している職員自らが、劇場を愛し、
情熱・価値観を持って事業を展開することにつきると思う。
色々な成果(結果)を出している劇場も、はじめから地域に定着していたわけではなく、たくさんの時間を費やして今(現在)があるようで、「最低3年は覚悟して取り組みなさい」と助言を受けた。またそのためには、段階ごとの中長期計画が大切だと思う。
色々な事業や劇場のレイアウトを見て、現在私たちが実施している事業や館内装飾に少し工夫をすればもっと良い劇場になるであろうヒントが見つけられたこと、そして何よりも地域との係わり(市役所、商工会、施設など)をもっと密にし、ギブアンドテイクの精神で臨まなければならないと教えられた。
職員自らが勤務する劇場を愛し、そこに勤務していることを誇りに思っていることが素晴らしいと感じるとともに、私もそうありたいと思う。

公益財団法人大野城まどかぴあ 文化芸術振興課 小磯




イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その6

 
2014-10-22
報告者:仙南芸術文化センター(えずこホール)所長 水戸雅彦

6月7日(土)レスター、カーブシアター見学、マギー・サクソンのセミナー

ロンドンに近い(と言っても1時間半くらいの距離)レスターにあるカーブシアターを見学。外観はガラス張りの近代的な建物。内部も斬新なデザインが施されたスタイリッシュな構造になっている。コンセプトはinside out(中が外、裏返し)、主ホール(802席)の舞台そでの壁を飛ばすと客の通路だったり、舞台背面の壁を飛ばすとスタジオシアター(282席)と繋がっていたり、なかなか斬新な作りとなっている。しかし、役者が客席通路を通って舞台に行かなければならないとか、吹き抜け構造のため目の前にある研修室に、ぐるっと迂回しなければたどり着けないとか、事務室が3Fの片側に一列に細長く配置されており窓がないとか(外観がガラス張りの建物なのにアンバランスな感じだ)。ひとしきり見学した後の感想としては、これはなかなか使い勝手の悪い劇場だなという感想を持った。案内してくれたスタッフもunfortunately(不幸にも、残念ながら)という言葉を乱発していた。

マギー・サクソンのセミナー

マギー・サクソンは、現在フリーの劇場コンサルタントで、イギリスピーターバラにあるキーシアターの経営監督を務めている。また、現在のWYPの基礎を芸術監督のジュード・ケリー(現ロンドン・サウスバンクセンター芸術監督)とともに経営監督として築いて、そののちにかつてローレンス・オリビエが初代芸術監督をした英国の名門地域劇場であるチェスター・フェスティバル劇場の再建を芸術評議会の要請で行いその手腕を高く評価されている人物である。
以下要旨
ソーシャルインクルージョン(社会包摂)という言葉は、1997年トニー・ブレアが、パブリックフォーラムで初めて使いました。しかし、言葉自体はもっと古くからあるものです。現在、劇場が公的助成金を得るには、社会包摂のプログラムを実施しなければならない状況です。コミュニティには、男女、人種、宗教、年齢、障害(身体的・知的)、恵まれた立場にある人、恵まれない立場にある人などさまざまな人たちがいます。それぞれに働きかけていく必要があります。
(ex. 1999年,イギリスの首相であったトニー・ブレアは「子どもの貧困を未来永劫,社会からなくす。そして,それを2020年までに一世代かけて実行する」と公約した。子どもの貧困法が2010年に制定され,2020年までに撲滅するということが法文化され,これを試みないと政府にとって違法になる。)

恵まれた立場にある人と恵まれない立場にある人との間にはバリアがあります。そして、恵まれない立場にある人は文化芸術にふれられないという環境があります。さまざまな芸術機関は国から助成を受けていますが、それを恵まれた立場にある人だけに向けてプログラムを展開するのはおかしい。
では、どうするか。
私(マギー・サクソン)は、白人で、ミドルクラス(中産階級)で、恵まれた環境にいます。ノースハンプシャーに住んでいて、アビーバーというスポンサーの付いたラグビーチームがあり優勝しました。私はラグビーのルールは知らないのですが、試合を見ていてゴールが決まると沸くし興奮します。また、クリケットを学校で習って好きになり、今でも細かいことを覚えています。今夏にはイングランド×インド戦を見に行きます。なぜ、文化の話でスポーツの話をするかというと、文化とスポーツを並行で考えてソーシャルインクルージョンとディスクルージョンについて話したいと思うからです。
たとえば、絵を描いたりお芝居を演じたことのない人が、どうやって劇場やアートセンターに足を運べるでしょう。彼らはそのやり方がわからない。それはそのまま機会がなかったということです。ですから、体験できる状況を作っていくということ、それが最初の問題です。
ではどうするか、
人が人を排除するのがよくないとわかったらインターアクション(交流(する)、相互作用(する))すべきです。それをしていくのがソーシャルインクルージョン(社会包摂)のプログラムです。
ブレアがソーシャルインクルージョン(社会包摂)を唱えたのは素晴らしいことですが、その前からソーシャルインクルージョン(社会包摂)が大切だと言っていた人たちはいました。
WYPの初代の芸術監督のジュード・ケリーはすでにWYPでソーシャルインクルージョンプログラムを展開していました。そしてそれがブレアに影響を与えました。
ヘイデイズは、ジュード・ケリーが25年前に作ったものです。絵画、文学を読む、ディベート、フィットネスなどいろいろなプログラムを立ち上げました。サイバー・カフェもWYPのロビーの一角に作りました。お年寄りたちが無料でPCをどう使うか。WYPに来ていた若者たちが教えて、若者とお年寄りの交流の機会となりました。いろんな人たちが共存していく。それが一番の根底にあります。
重要なことは、行政から助成金をもらうためにソーシャルインクルージョン(社会包摂)プログラムをやるのか、劇場が必要だと思ってやりその結果として助成金がつくのかということです。WYPは助成金のあるなしにかかわらず考えてきました。格差社会がよくないという強い意志が必要です。人間の尊厳に対する畏敬の念とビジョンが必要です。そして社会包摂と文化政策の統合が必要だという共通認識が必要です。その中から戦略が生まれます。
アーツカウンシルは素晴らしいプログラムを作っています。そして文化機関を選び他の機関に広めていきました。そして、お客を増やすのが一番ではなく、参加型プログラムを導入するということを導入していきました。

オールドビック劇場のピーター・チーズマンはドキュメンタリーシアターで有名です。ドキュメンタリーシアターとは、地域の人たちの個人の話をインタビューし、それをもとにプロが演劇作品を作る手法。オールドビック劇場の地域は、労働者階級が多く、そういった人たちを題材にした作品をたくさん作りました。たとえば、鉄工所が閉鎖されようとしている。住民、政治家、いろいろな立場の人たちに話を聴いてプロの役者、スタッフで物語を作り上演する。それを見て地域の人たちはこれは私たちの物語だと感じるというわけです。

私は、今キャパ350席と112席のホールを持つキーシアターというところで仕事をしています。商業的劇場で、公的助成は0です。ビバシティというところで、図書館、ギャラリー、博物館も運営しています。ほとんど地域に関わらない劇場でした。そこでまず地域の人たちと話をしました。そして信頼を築いてからダンスシアターと一緒に学習障害の人たちのプログラムをやりました。
また、月1回日曜の午後、地域のブラスバンドが演奏します。バンドはいろんなことを試せます。コミュニティ・オーケストラです。クラシックとジャズをミックスしたものです。インド系の人たちが多いので、リーダーと話をしてグジュラティ地区のもの、ボーリーウッドの映画を上演したりしています。
現在、アーツカウンシルの新しい助成金で、地域の人たちが創造的な作品を作るのに取り組んでいます。いろんな地区からブリッジリーダーを選び、それらの人たちで話し合い、排除されていた地域の人たちに届くプログラムを作ります。
              *
アーツカウンシルから定期的に助成を受けている団体数について質問すると、約50館だという。これはイギリス全体なのかイングランドだけなのか確認しないでしまったが、おそらくイングランドだけなのだと思う。
いずれ、マギーの話は快刀乱麻を断つごとく明快な喋り方で、その考え方は確信に満ち溢れていた。「重要なことは、行政から助成金をもらうためにソーシャルインクルージョン(社会包摂)プログラムをやるのか、劇場が必要だと思ってやりその結果として助成金がつくのかということです。WYPは助成金のあるなしにかかわらず考えてきました。格差社会がよくないという強い意志が必要です。人間の尊厳に対する畏敬の念とビジョンが必要です。そして社会包摂と文化政策の統合が必要だという共通認識が必要です。」という言葉が心に深く響いて余韻となって残っている。
 

▲レスター、カーブシアターの外観


▲マギー・サクソンのセミナー、とても内容の濃いセミナーであった。

*当初予定していた、英国芸術評議会のパーバラ・マシュズ氏と意見交換会については、都合によりマギー・サクソン氏のセミナーに変更となった。マギー・サクソン氏は、英国の文化芸術プログラムの専門家であると同時に、英国芸術評議会ともも密接な関係性を持って活動をしている人物であり、講師が変わったものの、イギリスの文化の現状、文化政策の考え方、今後の展望など、非常に興味深く奥の深い内容のお話を聴くことができた。


まとめ  

英国の優れた地域劇場の特質、共通点は下記のようなものである。

1.時にロンドン公演、地方公演にかけられるほどの優れた舞台作品を制作し、地域のアイデンティティ、誇りを醸成する質の高い文化・芸術活動を展開している。
2.地域に密着したアウトリーチ事業、普及事業(エデュケーションプログラム)、コミュニティプログラムを展開しており、劇場が地域及び地域住民と繋がる事業を幅広い対象に向けて多彩に展開している。特に社会的に恵まれない貧困層に対して、他の社会機関と連携して働きかけ、アートという手法を使い社会参加を促す事業を積極的に展開している。
3.上記事業展開の根底には、ソーシャルインクルージョン(社会包摂)の考え方がしっかり共通認識として存在し、事業達成に向けたはっきりしたイメージと強い意志がその推進力となっている。

日本の地域劇場の問題点と今後の展望。

1.日本の地域劇場においては、経験者が不足しており、更に人材育成に十分に取り組まれていないことにより、事業の内容がまだまだ充実したものとはなっていない。更に指定管理者制度の導入により、有期雇用職員が増え、この状況に拍車をかけている。人材の確保とその育成、身分と賃金の安定化が喫緊の課題である。
2.ソーシャルインクルージョン(社会包摂)の考え方がまだまだ一般化しておらず、主たる事業は舞台公演。また、ワークショップ等においても、文化芸術を愛好する人たち向けの事業が圧倒的に多い状況となっている。今後、0歳から100歳まで幅広い対象に向けて社会包摂を念頭に置いた各種事業を積極的に展開していく必要がある。
3.「国や地方は人がつくる、人をつくるのは文化芸術である」という言葉がある。文化芸術は、社会的、時間的、経済的に余裕のある一部の市民のためのものという考え方がいまだに根強いが、すべての市民にとって必要なものであり、それなくして社会の豊かさと幸福はあり得ないものである。成熟した社会は成熟した文化を持つ。文化の衰退する社会とは社会そのものが衰退していることを意味している。これらのことを共通認識とし、すべての市民が創造的に活性化していく事業を各種展開し、そのことにより社会の活性化を促進し、豊かで幸福な社会の醸成の一翼を担っていくのが地域劇場の使命である。

以上




イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その5

 
2014-10-22
報告者:仙南芸術文化センター(えずこホール)所長 水戸雅彦


6月6日(金)シェフィールド・シアター

シェフィールド・シアターは、3つの劇場(建物は2つ)から成り立っている。一つはライシュン劇場。1850年開館。1960年に一度閉館したが、1990年に改修工事を行い再開した。オーデトリアムは、古き良き時代の劇場の雰囲気をそのまま残しながらも、機能だけリファインしたという感じで、とてもいい感じの劇場であった。もう一つが近代的な建物で1970年に開館した。この中にクルーシヴル劇場とスタジオ劇場がある。それぞれ演目で性格分けを行っており、ライシュン劇場では、ロンドン・ウェストエンドなどからくる商業演劇等を買い公演として上演、収入元としている。クリスマスのみ特別企画のみ制作公演を上演している。新しい劇場は制作劇場であり、特にスタジオ劇場は200席ほどの空間で、実験的な作品にトライしている。シェフィールド・シアターは、2013~2014年2年連続ザ・ステージアワードによりベスト地域劇場に選ばれている。
ミッションは、「私たちは、ライヴアートが、人々の生き方を根底から変えていくと信じています。私たちが提供する、上質で多様で、市民生活を拡張していくプログラムで、シェフィールド、ひいては遠方に住む人々も含め、笑いと涙と深い思索を喚起し引き出します。」とある。
シェフィールド・シアターは、シアター・イン・エデュケーション(学校教育に演劇を持ち込むプログラム)の発祥の地でもある。さまざまな市民向けプログラムも実施している。
4~3月で年間200本のプログラムを実施している。

シアターバンガード:シアター・イン・エデュケーション。何週間かかけて学校で演劇作品を作り劇場にかける。学校の先生に指導方法を教え、その先生が生徒を指導する。舞台プランはプロが担当、それ以外はすべて生徒が担当する。

Live for 5:16~26歳までの若者は5ポンド(約900円)でチケットが買える。

ワークエクスペリエンス:劇場がどのように演劇作品を制作するのか体験する1週間のコース。
その他学校向けワークショップ:劇場で上演する作品にリンクしたもの。学校でさまざまなワークショップを開催。スキルワークショップ、プレイリーディングetc.
シアターツアー、シアタートークの要望が高い。

Sheffield people’s theatre(市民劇団):12歳以上誰でも参加できる。4~7月。これまで3作品を制作。今年は「シェフィールド・ミステリーズ」を制作。300人が応募し、オーディションにより12~80歳、94人が出演することになった。オーディションに漏れた人たちには、ワークショップに参加してもらい、次回に参加してもらえるよう配慮している。また、今まで劇場に来たことのない地域に出かけて行ってオーディションやワークショップを行い参加を喚起している。稽古期間は約3か月間、毎週月~金曜日午後6時~9時、土曜日は1日。military positionミリタリーポジション(軍隊式に割り振られた)の稽古スケジュールで稽古・制作している。

Ex.ソマリアの10歳の女の子が参加、英語を全く喋れない状況だったが、文化の違いに適応し学校へ行けるようになり、全く違う人生を歩むようになった。
*ミステリー・プレイ=中世の聖書の物語。シェフィールド・ミステリーズは、それを現代のシェフィールドに設定して書き換えた作品。
*市民劇団のミッション「エキサイティングでチャレンジングで大胆で、芸術的に質の高い作品を制作し、12歳以上の市民を巻き込んで制作する。参加者は情熱があればそれで十分である。」
その他ソーシャルプログラムも実施:元気な市民になる。孤立した人たちが知り合いを作る。貧富の差があるので、どちらかというと貧しい地区を対象として、様々な人種、格差のある人たちが相互理解していくようなプログラムを展開している。
チケットの売り上げの高いエリアは、富裕層が多く、健康な人が多い。貧困層より20歳長生きする。

シェフィールド・シアターの収入は、チケット収入が59%、レストランの売り上げが13%で実に収入の72%が自主財源。公的補助は16%でこれまで見てきた劇場の中では最も低い。ライシュン劇場が商業的な演目で売り上げを確保していることがその大きな理由と思われるが、他の地域劇場に比べて足腰が強いということがいえるのだと思う。それにしても2年連続ベスト地域劇場はすごい。


▲1850年開館のライシュン劇場


▲クルーシヴル劇場


「その6」へ続く




イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その4

 
2014-10-22
仙南芸術文化センター(えずこホール)所長 水戸雅彦


6月5日(木)ウェスト・ヨークシャー・プレイハウス(WYP)2日目

WYP二日目。劇場の近くに借りているビルで開催しているファースト_フロアを中心に、さまざまなお話を伺う。

ファースト_フロア:ニート向けのプログラム。11~19歳(一般)、14~25歳(学習障がい者)を対象に、音楽、ドラマ、美術他10のアクティビティが日替わりで用意されている。金曜日にはさまざまなところから40人ほどの若者たちが来て、みんなで歌を歌うプログラムもある。誰でも申し込みなしで気軽に参加できる。オープンデイという見学の日も設けられていて、誰でも参加できる。このプログラムの優れているところは、このプログラムを受けることで大学の受験資格を取得できるところにある。学校に行っていない若者たちをアートで元気づけ、社会への道筋を作っていくプログラムである。また、このプログラムのアウトリ-チも実施している。
場所はWYPの近くのビルの2階にある。まさにfirst_floorである(イギリスでは1階はground floor)。おそらくこの言葉には最初の段階というような意味が込められているのだと思う。部屋は3つのクリエイティブスペースに区切られており、取り払うと大きなスペースが出来上がる。また、仕切り壁はホワイトボードで作られていていろんな風に活用できるようになっている。
前室のグリーンルームには、子どもたちに向けて「これから何したい?」「今日のセッションはどうだった」「ファースト_フロアでいい思い出は?」「ファースト_フロアは君にとってどんな感じ」と言ったシートが貼ってあり、それに子供たちが感想を書いた付箋がたくさん貼ってあった。「lerievdほっとした」という付箋が目に付いた。
ちょっとだけ見学させていただいた。問題を抱えている子も多いので撮影は厳禁。何組かの子どもたちが、ドラマのようなセッションを行っていた。その一組がまだ途中だけれども作品を披露してくれるというのでみんなで見せてもらった。二人の女の子が背中合わせでセリフをそれぞれ喋る。次に体勢を入れ替え90度に並んでまたセリフをそれぞれ喋る。そしてまた角度と向きを変えセリフをそれぞれ喋る。セリフの意味は分からない。しかし、その立ち位置と二人の女の子の位置関係から、うまくコミュニケーションできない二人が少しずつコミュニケーションできるようになっていく過程を描いてるんだな、と推量される。おそらくそうなのだろうと思う。わけもなく胸が締め付けられ目頭が熱くなった。

ユースシアター:若者向け劇団。参加オーディションはない。インターネットで申し込む。作品は、社会的に問題になっていることを取り上げている。前回は「girls like that」という作品でリベンジポルノを取り上げた。ネットでボーイフレンドにヌード写真を送ったらネット上に公開されたというお話。この作品を見たyoung mindという慈善団体が、ぜひ政治家に見せるべきだと主張してくれて、国会の政治家に前で上演された。またシナリオは出版された。新作はpronounトランスジェンダー(性同一性障害)の話。これも出版されている。また、メンバーの何人かはWYPのシアター(プロの演劇団体)にも出演している。更に、リーズ市内へのアウトリーチも行っている。
作品の集中稽古は8時間×20日間。夏休み、イースター等学校の休みを利用して4日間×5回で実施している。現在、参加者は20人、3回遅刻したらミーティング、休む子、セリフを覚えてこない子には、休団も含めミーティング。
キーワード:チームワーク、コミュニケーション、取り組む姿勢、人生を歩むスキル。

Refugee boy(難民の少年):演劇作品。14歳のアレン少年は、ホリデイだと父親に連れられてロンドンにやって来る。親は「祖国では命が危ないからお前はここで生きなさい」という書置きを置いていなくなる。その少年のお話。この作品上演に合わせて、難民の置かれた状況を知ってもらう活動や、難民の女性の合唱プログラムを展開。難民の女性たちは、言葉もわからず、友達もいない状況の中から、同じ境遇の仲間を得、言葉も覚えながらイギリス社会に溶け込んでいく。このことによりたくさんの難民女性が救われたと話している。

ビューティフル・オクトパス・クラブ:成人の学習障がい者の運営するディスコ(ナイトクラブ)。若者たちはハチャメチャな衣装で参加し楽しむ。

1990年WYPオープン当時からあるミッションは、「地域と繋がるということ」。そして、「全国的に評価の高い作品を制作するということ」。これらのことは連綿と引き継がれ、年々その内容は広がりと深みを増しているようである。


▲ファースト_フロアのあるビル


▲ファースト_フロアについて説明を受ける


▲WYPの様々な事業の説明を受ける。


▲WYPの優れた事業に「シアターサンクチュアリ賞」が贈られた。

「その5」へ続く




イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その3

 
2014-10-16
報告者:仙南芸術文化センター(えずこホール)所長 水戸雅彦

6月4日(水)ウェスト・ヨークシャー・プレイハウス

研修三日目、いよいよウェスト・ヨークシャー・プレイハウスである。
haydays を見る。「輝かしき日々」というような意味合いである。これは毎週水曜日に開催される、55歳以上を対象にしたプログラム。25年目。1回の参加費1ポンド50ペンス、誰でも参加できる。会員制で300~350人が参加している。内容は、歌、ドラマ、絵画、工芸その他18プログラムが1日の中で並行して開催されている。講師はプロのアーティスト。年間3期に分かれていて、それぞれの期末に1日かけてすべてのプログラムの発表会、展示会を行う。展示作品は販売もし売り上げは市に寄付される。プログラムは12週連続で行うものと単発のものがある。プログラムを作るにあたっては、参加者の中からアドバイザーを選び、アドバイザリーグループが職員と相談しながら一緒に作っていく。最近、認知症向けのプログラムも始めた。

最初に見学したのは、アートの講座、エ ントランスを入ってすぐ右の階段を上がったところのレストランの一角に、特設大テーブルが設えられ、そこで50人ほどが、絵画、版画、彫刻、コラージュな どの作品を作っている。レストランの一角である。すぐ隣ではお茶を飲んだり、食事をしている人たちもいる。最初少々違和感を感じたが、そういうものだと思えばそういうことなのだと妙に腑に落ちた。お茶を飲んでいるおばあちゃんに声を掛けられた。
「どこから来たの?日本、そう、日本に行ったことがあるわ。なんていったかな、オザカ?それと北京にも行ったことがある。朝みんなで太極拳をして たわ」
その隣のおばあさん、
「あたしたちいくつの見える?」
う~ん難しい質問ですね。というと、
「隣のこの人は90歳なのよ。それでこっちの二人は80歳越えてるの」
え~ほんとですか。信じられない。若いですね~。というと、大喜びでにこにこ笑いながら、
「私たちはここでお茶飲んでるの。あっちの若い人たち(どう見てもみんな60~70歳以上)は作品作ってるけどね」
と楽しそうに話す。

次に見たのがアニメーションのコース。三脚にデジカメを取り付け、テーブルの上にある切り紙の人形や何かを少しずつ動かし作っていく、根気のいる作業である。二人のお年寄りが自分の作品をデジカメのディスプレイで見せてくれた。これがすばらしいのである。かなり質が高い。正直驚いたと同時に、ひょっとしたらどこでもだれでもできるのではないかとも思った。デジカメの普及のお蔭といえるのだろう。そしてもう一つダンスのクラスを見学 した。この日はフラメンコを練習していたが、期ごとに内容は変わるのだそうだ。私たちが入って行ったらまだ完成してないけどと言いながら、途中まで出来上がったダンスを見せてくれた。ほとんどの人たちが70~80歳以上、みんな笑顔で若々しく踊っている。
何人かに話を聞くと
「いろんなダンスを経験できて楽しい」
「20年通っている」
という。そういえば、お茶を飲んでいたおばあさんももう20年通っているといっていた。

昼食時には、レストランがお年寄りたちで溢れかえる。200人はいるだろうか。みんな楽しそうに談笑しながら 食事をとっている。それぞれ話題に花が咲き乱れとても賑やかである。
午後からは、午前とは全く別のプログラムが開催される。午前午後、2つのプログラムに参加してい人たちも多いという。

まず、歌のクラス。60人ほどの男女が、ゴスペルの曲を三部合唱で練習していた。入っていくと一緒に歌えということでみんな席に座らされ、2曲ほどいっしょに歌った。隣のおばあちゃんが、
「私は今日眼鏡を忘れちゃってね。譜面が見えないの」
と言いながら譜面を見せてくれた。
全部ゴスペルなの?と聞くと、
「そうじゃない。今はそうだけどね」
歌う曲は期ごとにいろいろなのだそうだ。

次に見学したのがドラマのクラス。
お年寄りたちが壁際に並べられた椅子に横一列に座り、反対側の壁際にマイクのスタンドが横一列に置かれている。音楽に合わせお年寄りが一人ずつ前に出て来て、1行ずつセリフを読む、次の回ではセリフを読むお年寄りの後ろで、ダンスや、自分で考えたさまざまな身振りがシンクロして展開される。お年寄りたちの動きに、指導者が少しずつ演出のアドバイスを入れながら、セリフも変更したりふくらませながら作品が作られていく。発表会で上演する演劇作品を作っているのである。
このプログラムは、最初、懐かしのポピュラー音楽を聴いてもらい、何を思い出すか、というところから始まり、それぞれが単語や詩の一行を考えだす。それらを繋ぎ合わせ、大きな流れ、物語をつくっていくというやり方である。セリフを聞いていると、若いころの恋愛、懐かしい思い出、素敵だったダンス、今君はどこで何をしているのか、といった、若き日の恋愛の思い出に関する言葉が紡がれているようだ。恋、愛は永遠のテーマなのだなあと思った。

お年寄りたちはみんな元気で笑顔に溢れている。車いすの人たちも結構多い。ヘイデイズのプログラムの根底にあるのは、文化プログラムを通して地域の住民を孤立させないというところにあるのだと思う。だから1日に18ものさまざまなプログラムを開催しているのである。たくさんのプログラムを用意すれば来るお年寄りも多くなるということなのだと思う。

15時でヘイデイズは終了。次はバックステージツアー。WYPのホ-ルは350席と750席の二つがあるのだが、ステージは仕込中できちんと見れなかった。他の施設をいろいろ見て回った。一番圧倒されたのは、ワークショップ(工房)の広さ。大きな倉庫1つといった感 じ。えずこホールの大ホール全部くらいの面積がある。その他の施設も日本では考えられないほど十分なスペースがとられている。


▲アニメーションを作るお年寄り


▲ドラマのコース、お年寄りのアイディアから劇を制作中


▲ウェスト・ヨークシャー・プレイハウス外観


▲ワークショップは驚くべき広さである


「その4」へ続く




イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その2

 
2014-10-15
報告者:
仙南芸術文化センター(えずこホール)所 長 水戸雅彦


6月3日(火)リバプール、エヴリマン&プレイハウス、

研修二日目。リバプール、エヴリマン&プレイハウス、今年50周年を迎え大幅に改修した劇場で、エブリマンというのは、すべての人のための劇場と いう意味つまり「みんなの劇場」という名前なわけである。真新しい建物のファザードにはeverymanという大きな文字とともに、105人の住民の立像写真が飾られ人々を迎える。しゃれたネーミングもいいが、このストレートなネーミングは素晴らしい。発想が違うのである。
リバプールもその素晴らしい文化事業の取り組みにより2008年に欧州文化都市に選定された。
マニフェストは、恐れずに作品をかける。リバプールのアイデンティティを守る。ポジティブに志向する等々。
この劇場も、素晴らしいアウトリーチ事業、普及事業(エデュケイションプログラム)とコミュニティプログラムを実施している。
まず、ナショナルヘルスサービスが作成した貧困度の分布を表す地図があり、その中で最も貧困度の高い地区に向けてさまざまなコミュニティプログラムを実施 している。これらのプログラムの実施に当たっては、警察、保健機関、住宅部局、ソーシャルサービスなどと連携してやっている。事業予算もそれらの行政機関 から出ていることも多い。
建物の作りも素晴らしいのだが、事業が素晴らしい。いくつか事例を紹介する。

犯罪者(反社会的人間)へのプログラム:親の教育の問題もあるが、子どもたちがやることがないことが問題。2歳の子どもがアルコールを飲み、火遊びをしていた。その家族全員をアートプロジェクトに参加してもらい大きな作品を作り家の前に展示、それを近隣の人たちが見て、その家族を認めることができるようになったことで、地域の人たちとの関係性、さらには地域の環境そのものが改善した。

見捨てられた人々(老人)へのプロジェクト:引きこもって社会と接触しようとしない老人たちに対して、有名な俳優と行政職員が訪ね、エブリマン劇場の演劇の話をする。また、それに使った音楽も聴いてもらう。そういった一連のアプローチから、老人が劇場に足を運ぶようになり、社会との関係性が復活していく。

小学校どうしの縄張り争い:対立する子供たちの縄張り争いが、麻薬や暴力の問題に発展していく。その縄張りを解いていくために、サンババンドを結成。音楽交流することによりお互いの縄張りを行き来できるようになった。

使われていない鉄道線路を使ったプロジェクト:非行の恐れのあるぶらぶらしている若者たちに、リバプール・ランタンカンパニーとともにアートプロジェクトを提供。24の学校の協力を得てさなぎのランタンを作りパレードを行った。さなぎのランタンは最後に蝶になる(一人前という意味)という仕掛けになっていた。

young man with delight (罪に走りがちな少年向けプロジェクト):照明のないフットボール場に屯する少年たち、麻薬に接触し、犯罪を犯しやすい環境にある。子どもに聞いたところ「照明があればサッカーができる」と答えたため、近隣の人たちに声をかけ、照明器具を集めた。みんなが照明器具を持ち寄りその明かりで少年のフットボールのビデオを撮った。それを見たリバプールのフットボールチームから、才能があるということで指導が受けられるようになった。それが発展し、リバプールのいろいろなところに照明を灯して明るい街を作るプロジェクトを展開した。それに参加した若者たちが、それらの仕事の中でリバプール市から賃金をもらえるようになり、照明家のプロになった。

12'at risk'yuong man: リバプールで一番危険なストリートにある空き店舗を利用して、50人のぶらぶらしている若者たちと展開したプログラム。クリスマスをテーマに、妖精たちの家やいろんなグッズを作り、シチューの大鍋を作って人々に振る舞った。評判のいい子供たちではなかったから、そんなのに人は来ないよと言われたが、300人が集まった。それから、壊れた自転車のパーツを使ってさまざまにオリジナリティ溢れるcrazy bikeを作った。

また、上記のさまざまなプログラムに参加した子供たちを、大きな市のイベント ロイヤルデラックスにさまざまな形で参加しえ行くような仕掛けもしている。

コミュニティプログラムについて書いたが、演劇の作品制作においても素晴らしいものを創り、ロンドンの劇場にかけたりもしている。総合的に質の高い劇場である。
資金、予算については詳しく聞けなかったが、ファンドレイズ(外部資金調達)が、年間50万ポンド以上(約1億円)あるという、ほんとうに素晴らしく充実している劇場である。

犯罪者、麻薬中毒者、引きこもり、さまざまに問題を抱えた人々、彼らは排除されるべきではなく、社会は彼らをやさしく、温かく包み込み、彼らに自信を取り戻し、生き生きと生きるためにあらゆる手段を講じるべきである。彼らこそが社会を活性化させるのである。



▲エヴリマン劇場外観105人の住民の立像写真がファサードを飾る。


▲劇場内部、独特の構造で興味深い


▲young man with delightの紹介スライド


▲若者向けの事業一覧、紹介スライド


「その3」へ続く




イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その1

 
2014-10-6
2014.6.1~9
訪問地:グラスゴー・シチズンシアター、リバプール:エヴリマン&プレイハウス、リーズ:ウェスト・ヨークシャー・プレイハウス、シェフィールド・シアター、レスター:カーブシアター、マギー・サクソンのセミナー

仙南芸術文化センター(えずこホール)
所 長 水戸雅彦

6月2日(月)グラスゴー・シチズンシアター
研修初日。今回の研修のメインは「ウェスト・ヨークシャー・プレイハウス」なのだが、そこに至る前に、グラスゴー・シチズンシアターで、まず大きな衝撃を受けた。それほど素晴らしい考え方で事業を展開していたのである。
グラスゴーは、かつて重工業の盛んな都市として栄えたが、時代の流れとともに大きく衰退、一時大量の失業者とともに街の荒廃が進んだ。それを再興したのがアートによる街づくり、クリエイティブシティである。その功績により欧州文化都市に選定されたのはつとに有名な話である。
グラスゴー・シチズンシアターは、1876年に建設された建物であり、それを何度か改修しているが、既存の建物を生かし、それに増築を重ねる形で現在の形となっている。古い建物をきちんと生かしながら、新たな機能をどんどん付けたしていっているのである。驚くべきは、舞台は少々古めかしいのだが、設備は完璧に整っていることである。ウッドワークショップ、メタルワークショップはしっかり整備されており、ワードローブ(衣装部)は、古着屋さん二軒分ものスペースがある。それでいて舞台機構の木造の人力で動かす機構もちゃんと残っているのである。
劇場の目的は、良質の作品を安価なチケットで提供すること。ゴーバル(地元地区)の人たちには特に安く提供している。学生や失業者は50ペンス(約90円)、ほとんどただのような値段である。一時無料で提供していたのだが、クリエイティブスコットランド(旧スコティッシュカウンシル、財政支援団体である。毎年150万ポンド(約2億7千万円)の支援を受けている)からチケットは売るものだとの指摘を受けて廃止。それでも現在、100枚限定で50ペンスのチケットを販売している。早い者勝ちだそうである。ちなみに年間の観客数は7万人、普及事業参加者は2万5千人だそうである。
さて、イギリスの地域劇場はどこでも、アウトリーチ、普及事業(エデュケイションプログラム)とコミュニティプログラムを実施しているのだが、ここもとても素晴らしいプログラムを実施している。以下いくつか紹介すると。

・プリズンプロジェクト:通年で3ピリオド開催している刑務所の受刑者向け事業。多くの受刑者が読み書きがあまりできない等の理由で出たり入ったりしている状況があることから、それらを改善しながら演劇作品作りに取り組むことにより受刑者の自信回復を図る。観客は、受刑者及び家族、友人などの関係者。一人の囚人に年間5万ポンド予算がかかっているから、二人の囚人が社会復帰すればそれで予算はペイしているとのことである。

・小学校のドラマ事業:イギリスでは、カソリックとプロテスタントの対立が大きな社会問題となっている。そこで、対立している44校(カソリック、プロテスタント約半々)を対象に混合でキャスティングし演劇作品を作り、学校の体育館で上演した。そして、それをこどもたち、保護者に見せた。
このようなプロジェクトをさまざまな住民を対象に実施している。これらの話を聞きながら、日本がいかに遅れているのかを再確認した。アートは一部の嗜好者のためにあるのではない。すべての人間が創造的に活性化するためにあるのだとの感慨を強く持った。


▲グラスゴー・シチズンシアター外観


▲運営スタッフより詳細説明を受ける


▲古い舞台機構がそのまま残っている。


▲古着屋2軒分もありそうなワードローブ。

「その2」へ続く




英国地域劇場スタディーツアー その1-3

 
2014-9-18
(下斗米つづき)

一過性ではないプログラムづくり・・これがポイントです。

 6月5日(木)。ウエストヨークシャー・プレイハウス2日目です。この日は劇場のすぐ横のビルにいきました。ここには「First Floor」(写真7)というプログラムのためのスタジオが1階(日本的には2階)にあり、その上には衣裳置場があります。
この「First Floor」がまたまたすごい。麻薬に手を染めり、不登校だったりという


(写真7)

問題のある若者を集めて10のアクティビティー(ダンス、ドラマ、美術など)を用意しており、プロの講師がしっかりと指導していき、最終的には舞台やCDでの発表を実際に行っていくのだそうです。でももっとすごいのは、このコースを卒業すると大学への受験資格が取得できるということ。つまり問題児たちをきちんと社会復帰させるプログラム作りが出来ている点。きちんと最後まで責任を持つというこのシステムは本当に感心しました。他にもすごいプログラムは幾つもあるのですが、これらはまた他の報告者からのエッセイに任せることにして、ウエストヨークシャー・プレイハウスの説明はこれでお仕舞いにします。

一過性ではないプログラムづくり・・これがポイントです。
 6月6日(金)。シェフィールドのクルシーブル劇場(写真8)とライシュン劇場


(写真8)

を視察しました。この二つの劇場はシェフィールド劇場という組織(日本的にいうと一種のNPO法人)が経営しています。非常に近代的な建物のクルシーブルとオーソドックスなイメージのライシュン(写真9)という、まったく違ったタイプの劇場を


(写真9)

実に上手く使った経営で、ここはいま英国でも一番ホットな場所といわれているところです。ポピュラーなミュージカルや昔懐かしい古典ものをやる一方で、ものすごく先鋭的で、実験的なものも制作しており、幾つかの作品はウエストエンドでも取り上げられているとのこと。でも、ここでもやはり社会的なプログラムもきちんとやっていました。これは他の劇場でも盛んなのですが、例えば「ユース・シアター」、文字通り若者を集めて、プロの演出家が指導して作品づくりをして行くプログラムですが、まったく英語も話せなく、孤独なソマリアの難民少女がしだいになじんで行くというような、現代のシリアスな問題をテーマに取り上げたものや、「シェフィールド・ピープルズ・シアター」というシェフィールド市民から募集した素人をここの劇術監督が指導して芝居づくりをするというようなプログラムなどです。いままでグラスゴーのシチズンズ・シアター。リバプールのエブリマン・シアター、リーズのウエストヨークシャー・プレイハウスそしてこのシェフィールド劇場と視察して来て思うのは、劇場の役目として、素晴らしい作品を鑑賞して貰うということだけではなく、劇場自身で作品づくりをして行く一方、それぞれの地域の様々な問題、貧困、犯罪、老人などの解決に地域の各行政機関と協働で立ち向かっていく姿でした。これが英国の劇場が日常的に人で賑わい、地域に溶け込み、信頼されている一番の要因だという気がします。日本の劇場も早く、こうした姿に近づきたいものです。


英国にも、とんでもなく使いづらい設計の劇場は、あった。

 6月7日(土)。この日は一昨年前の世界劇場会議国際フォーラム2013にも来ていただいた劇場コンサルタントのマギー・サクソンさんのセミナーの日。会場はレスターのカーブ・シアター。この劇場はカーブという名の通り建物全体がガラス張りの円形ビル。ものすごくモダンで斬新なデザイン。しかし案内してくれたこの劇場の副支配人によると、あまりにも奇抜なデザインなのでものすごく使いづらいとのこと。円形のビルの中に劇場をぐるりと取り囲んだ形で通路があるので、劇場の袖は左右ともほとんど無し。搬入口も円形ビルの外からで、一般の人が通る通路をまたいで運び込まなければならないとのこと。もっとすごいのは楽屋。通路をまたいでエレベーターに乗り2階まで上がらなければ楽屋へは行けないので、衣裳に着替えた役者たちはそのままの姿で通路を通って舞台袖に入るという、信じられない構造になっているのだ。見学を終えて一同の感想は、“イギリスにも、設計家のエゴによるひどい劇場はあるのだな〜”と妙に納得(写真10)。


(写真10)

以上
下斗米 隆




英国地域劇場スタディーツアー その1-2

 
2014-9-18
(下斗米つづき)

リバプールで、2発目のショック!

 3日(火)はリバプールのエブリマン&プレイハウスを視察しました(写真4)。


(写真4)

この劇場は今年50周年を迎え大改修をしたとのことで、とても近代的な建物。なかでも特にファサードがお洒落で、リバプール市民から募集して選んだという写真が100枚近くパネルにしてずらりとかけられており、文字通り「エブリマン・シアター」という感じ。そして、ここでも素晴らしいのはソーシャル・プログラム。犯罪の多い地区での活動や、引きこもり老人を社会復帰させようというプログラムなど、ちょっと日本では考えられないような活動を幾つも行っています。このような活動の場合は、もちろん劇場が単独で行っているわけではなく、警察や福祉、住宅、保健所など行政の様々な関連組織と手を組んでいるとのこと。まさに社会全体での取組になっているところがすごいと思いました。説明を聞いている我々がビックリしているのに、説明しているエブリマン側の人たちは、実に淡々としたもの、劇場でこういう活動を行うのは当然だということなのでしょうが、日本の劇場と何という違いでしょう。劇場が社会の中にしっかりと根を下ろしているという感じです。

圧巻!ウエストヨークシャー・プレイハウスの「ヘイ・ディーズ!」。

 6月4日(水)。この旅行のハイライト、ウエストヨークシャー・プレイハウスの視察です(写真5)。


(写真5)

この劇場私は2度目なのですが、前回は残念ながら「ヘイ・ディーズ!」は見られず、それだけにとても期待をしていました。で、当日劇場に一歩足を入れてびっくり(写真6)。


(写真6)

たくさんのおじいさん、おばあさんがいっぱいで劇場全体が大賑わいになっていました。そう、この「ヘイ・ディーズ!」というのは、リーズ市に住む老人たちに元気を取り戻して貰おうとはじめられた、この劇場最大のイベントで、英国の各地にも同じような趣旨の活動がどんどん広がっているそうです。
この劇場は入り口を入ってすぐ右に4〜5段の階段があり、それを登ると大きな空間が広がっています。ここは時にロービーになり、食堂になり、バーになり、イベント会場や会議室など多様に使われる空間なのですが、今日はそこで何十人ものお年寄りが集まってワイワイ、ガヤガヤ大騒ぎで作業をしていました。絵を描いている人や切り絵を作っている人がいるその奥ではお茶を楽しんでいる人たち、他の所ではカメラを使ったアニメーションづくりに、ダンスやコーラス・・・と、この日は全館がすべて解放されて18種類のいろいろなコースが開かれているとのこと。で、この「ヘイ・ディーズ!」ですが、もう30年近く続いているそうで、毎週水曜日に数百人のお年寄りが集まって、いろいろなコースに参加をし、お喋りをし、飲んだり食べたり和気藹々の一日を過ごします。どのコースもプロの先生方が指導をして、作った作品を一年に数回持ち寄って発表し、バザーを開くそうです。日本でもお年寄りを対象にしたいろいろな教室はありますが、こんなにオープンな雰囲気の、こんなに規模の大きなものは見たことがありません。地域の中でお年寄りが元気に、いきいきと暮らしていく・・・そんな活動を劇場がやっているのです。すごいですね!
(つづく)