イギリスの地方劇場及び英国芸術評議会の各種事業活動調査報告書その2
- 2014-10-15
報告者:
仙南芸術文化センター(えずこホール)所 長 水戸雅彦
6月3日(火)リバプール、エヴリマン&プレイハウス、
研修二日目。リバプール、エヴリマン&プレイハウス、今年50周年を迎え大幅に改修した劇場で、エブリマンというのは、すべての人のための劇場と いう意味つまり「みんなの劇場」という名前なわけである。真新しい建物のファザードにはeverymanという大きな文字とともに、105人の住民の立像写真が飾られ人々を迎える。しゃれたネーミングもいいが、このストレートなネーミングは素晴らしい。発想が違うのである。
リバプールもその素晴らしい文化事業の取り組みにより2008年に欧州文化都市に選定された。
マニフェストは、恐れずに作品をかける。リバプールのアイデンティティを守る。ポジティブに志向する等々。
この劇場も、素晴らしいアウトリーチ事業、普及事業(エデュケイションプログラム)とコミュニティプログラムを実施している。
まず、ナショナルヘルスサービスが作成した貧困度の分布を表す地図があり、その中で最も貧困度の高い地区に向けてさまざまなコミュニティプログラムを実施 している。これらのプログラムの実施に当たっては、警察、保健機関、住宅部局、ソーシャルサービスなどと連携してやっている。事業予算もそれらの行政機関 から出ていることも多い。
建物の作りも素晴らしいのだが、事業が素晴らしい。いくつか事例を紹介する。
犯罪者(反社会的人間)へのプログラム:親の教育の問題もあるが、子どもたちがやることがないことが問題。2歳の子どもがアルコールを飲み、火遊びをしていた。その家族全員をアートプロジェクトに参加してもらい大きな作品を作り家の前に展示、それを近隣の人たちが見て、その家族を認めることができるようになったことで、地域の人たちとの関係性、さらには地域の環境そのものが改善した。
見捨てられた人々(老人)へのプロジェクト:引きこもって社会と接触しようとしない老人たちに対して、有名な俳優と行政職員が訪ね、エブリマン劇場の演劇の話をする。また、それに使った音楽も聴いてもらう。そういった一連のアプローチから、老人が劇場に足を運ぶようになり、社会との関係性が復活していく。
小学校どうしの縄張り争い:対立する子供たちの縄張り争いが、麻薬や暴力の問題に発展していく。その縄張りを解いていくために、サンババンドを結成。音楽交流することによりお互いの縄張りを行き来できるようになった。
使われていない鉄道線路を使ったプロジェクト:非行の恐れのあるぶらぶらしている若者たちに、リバプール・ランタンカンパニーとともにアートプロジェクトを提供。24の学校の協力を得てさなぎのランタンを作りパレードを行った。さなぎのランタンは最後に蝶になる(一人前という意味)という仕掛けになっていた。
young man with delight (罪に走りがちな少年向けプロジェクト):照明のないフットボール場に屯する少年たち、麻薬に接触し、犯罪を犯しやすい環境にある。子どもに聞いたところ「照明があればサッカーができる」と答えたため、近隣の人たちに声をかけ、照明器具を集めた。みんなが照明器具を持ち寄りその明かりで少年のフットボールのビデオを撮った。それを見たリバプールのフットボールチームから、才能があるということで指導が受けられるようになった。それが発展し、リバプールのいろいろなところに照明を灯して明るい街を作るプロジェクトを展開した。それに参加した若者たちが、それらの仕事の中でリバプール市から賃金をもらえるようになり、照明家のプロになった。
12'at risk'yuong man: リバプールで一番危険なストリートにある空き店舗を利用して、50人のぶらぶらしている若者たちと展開したプログラム。クリスマスをテーマに、妖精たちの家やいろんなグッズを作り、シチューの大鍋を作って人々に振る舞った。評判のいい子供たちではなかったから、そんなのに人は来ないよと言われたが、300人が集まった。それから、壊れた自転車のパーツを使ってさまざまにオリジナリティ溢れるcrazy bikeを作った。
また、上記のさまざまなプログラムに参加した子供たちを、大きな市のイベント ロイヤルデラックスにさまざまな形で参加しえ行くような仕掛けもしている。
コミュニティプログラムについて書いたが、演劇の作品制作においても素晴らしいものを創り、ロンドンの劇場にかけたりもしている。総合的に質の高い劇場である。
資金、予算については詳しく聞けなかったが、ファンドレイズ(外部資金調達)が、年間50万ポンド以上(約1億円)あるという、ほんとうに素晴らしく充実している劇場である。
犯罪者、麻薬中毒者、引きこもり、さまざまに問題を抱えた人々、彼らは排除されるべきではなく、社会は彼らをやさしく、温かく包み込み、彼らに自信を取り戻し、生き生きと生きるためにあらゆる手段を講じるべきである。彼らこそが社会を活性化させるのである。
▲エヴリマン劇場外観105人の住民の立像写真がファサードを飾る。
▲劇場内部、独特の構造で興味深い
▲young man with delightの紹介スライド
▲若者向けの事業一覧、紹介スライド
「その3」へ続く
仙南芸術文化センター(えずこホール)所 長 水戸雅彦
6月3日(火)リバプール、エヴリマン&プレイハウス、
研修二日目。リバプール、エヴリマン&プレイハウス、今年50周年を迎え大幅に改修した劇場で、エブリマンというのは、すべての人のための劇場と いう意味つまり「みんなの劇場」という名前なわけである。真新しい建物のファザードにはeverymanという大きな文字とともに、105人の住民の立像写真が飾られ人々を迎える。しゃれたネーミングもいいが、このストレートなネーミングは素晴らしい。発想が違うのである。
リバプールもその素晴らしい文化事業の取り組みにより2008年に欧州文化都市に選定された。
マニフェストは、恐れずに作品をかける。リバプールのアイデンティティを守る。ポジティブに志向する等々。
この劇場も、素晴らしいアウトリーチ事業、普及事業(エデュケイションプログラム)とコミュニティプログラムを実施している。
まず、ナショナルヘルスサービスが作成した貧困度の分布を表す地図があり、その中で最も貧困度の高い地区に向けてさまざまなコミュニティプログラムを実施 している。これらのプログラムの実施に当たっては、警察、保健機関、住宅部局、ソーシャルサービスなどと連携してやっている。事業予算もそれらの行政機関 から出ていることも多い。
建物の作りも素晴らしいのだが、事業が素晴らしい。いくつか事例を紹介する。
犯罪者(反社会的人間)へのプログラム:親の教育の問題もあるが、子どもたちがやることがないことが問題。2歳の子どもがアルコールを飲み、火遊びをしていた。その家族全員をアートプロジェクトに参加してもらい大きな作品を作り家の前に展示、それを近隣の人たちが見て、その家族を認めることができるようになったことで、地域の人たちとの関係性、さらには地域の環境そのものが改善した。
見捨てられた人々(老人)へのプロジェクト:引きこもって社会と接触しようとしない老人たちに対して、有名な俳優と行政職員が訪ね、エブリマン劇場の演劇の話をする。また、それに使った音楽も聴いてもらう。そういった一連のアプローチから、老人が劇場に足を運ぶようになり、社会との関係性が復活していく。
小学校どうしの縄張り争い:対立する子供たちの縄張り争いが、麻薬や暴力の問題に発展していく。その縄張りを解いていくために、サンババンドを結成。音楽交流することによりお互いの縄張りを行き来できるようになった。
使われていない鉄道線路を使ったプロジェクト:非行の恐れのあるぶらぶらしている若者たちに、リバプール・ランタンカンパニーとともにアートプロジェクトを提供。24の学校の協力を得てさなぎのランタンを作りパレードを行った。さなぎのランタンは最後に蝶になる(一人前という意味)という仕掛けになっていた。
young man with delight (罪に走りがちな少年向けプロジェクト):照明のないフットボール場に屯する少年たち、麻薬に接触し、犯罪を犯しやすい環境にある。子どもに聞いたところ「照明があればサッカーができる」と答えたため、近隣の人たちに声をかけ、照明器具を集めた。みんなが照明器具を持ち寄りその明かりで少年のフットボールのビデオを撮った。それを見たリバプールのフットボールチームから、才能があるということで指導が受けられるようになった。それが発展し、リバプールのいろいろなところに照明を灯して明るい街を作るプロジェクトを展開した。それに参加した若者たちが、それらの仕事の中でリバプール市から賃金をもらえるようになり、照明家のプロになった。
12'at risk'yuong man: リバプールで一番危険なストリートにある空き店舗を利用して、50人のぶらぶらしている若者たちと展開したプログラム。クリスマスをテーマに、妖精たちの家やいろんなグッズを作り、シチューの大鍋を作って人々に振る舞った。評判のいい子供たちではなかったから、そんなのに人は来ないよと言われたが、300人が集まった。それから、壊れた自転車のパーツを使ってさまざまにオリジナリティ溢れるcrazy bikeを作った。
また、上記のさまざまなプログラムに参加した子供たちを、大きな市のイベント ロイヤルデラックスにさまざまな形で参加しえ行くような仕掛けもしている。
コミュニティプログラムについて書いたが、演劇の作品制作においても素晴らしいものを創り、ロンドンの劇場にかけたりもしている。総合的に質の高い劇場である。
資金、予算については詳しく聞けなかったが、ファンドレイズ(外部資金調達)が、年間50万ポンド以上(約1億円)あるという、ほんとうに素晴らしく充実している劇場である。
犯罪者、麻薬中毒者、引きこもり、さまざまに問題を抱えた人々、彼らは排除されるべきではなく、社会は彼らをやさしく、温かく包み込み、彼らに自信を取り戻し、生き生きと生きるためにあらゆる手段を講じるべきである。彼らこそが社会を活性化させるのである。
▲エヴリマン劇場外観105人の住民の立像写真がファサードを飾る。
▲劇場内部、独特の構造で興味深い
▲young man with delightの紹介スライド
▲若者向けの事業一覧、紹介スライド
「その3」へ続く